人々が行き交う、ティカのバスターミナル。食堂で流れるラジオからは、イラク戦争の影響で原油価格が高騰しているとのニュースが聞こえてくる。アンドリューは、ティカの町で小間使いやパーキングボーイとしてなんとかお金をもらいながら生活を続けている。シンナー中毒になり、時に自暴自棄になりがちな彼も、その人懐こい性格からみんなに慕われる存在だ。そんな彼が、突然、ティカ近郊に住む姉の家に住み、そこから学校に通いたいと言い出した。広々と続く草原を越えて、アンドリューの実家にたどり着く。立派な生け垣、きれいに掃除された庭、美しい農村風景。アンドリューの父親が一代でここまで大きく育てたという実家には、何棟もの建物が軒を連ねている。こんなに恵まれた環境にありながら、なぜアンドリューは家出を繰り返すのか。

「この子の為にこれまで何度も努力をしてきましたが、一向に更生してくれません。もうどうしたらいいのか」。同行してきたテルミに対し、英語で丁寧に応対する父親だったが、突然、キクユ語でアンドリューを罵り始める。「嘘つきめ! どの面さげて戻ってきたんだ。もうお前の事なんか知らん。勝手にしろ。町でのたれ死ねばいい」。父親の説教を浴びながらも、テルミに促され、アンドリューは勇気をふりしぼって発言する。「お姉ちゃんの所から学校に通いたい」「お前、本気か? あいつには子どもも男も居るんだぞ」。父親も、息子の不甲斐なさと自分の無力感に打ちひしがれているように見える。声を震わせて息子に語りかける。「お前がそばに居てくれなくて、私にいったい何ができる?」アンドリューの顔は、能面のようになったまま、動かない。


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