ところが本作にはそうした社会構造についての指摘もない。エイズや貧困についての深刻な議論も登場しない。抽象的な理屈をあえて封印し、野宿する子どもたちが汚いミルク缶で炊いたトマトピラフ(これがけっこうおいしそうだったりする)を奪い合う場面をていねいに撮影する。そうした描写によってかえって大きな社会的な問題が私たちにつきつけられる。自分の先入観が具体的な現実描写によって変わっていくのがわかる。全体にただようユーモアのセンスによって非常に「見やすい」作品になってはいるが、背後の過酷な現実は伝わってくる。ドキュメンタリーの王道的手法の勝利ともいえる作品である。


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