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第5回 三沢と川田と当時の僕(4)

 高校1年の6月に初めて生観戦した三沢vs川田は僕の心の中に大きな衝撃を与えた。高校に入って僕は文芸部に入部したが、この年の文化祭で配布した部誌に、どうしてもこの試合で感じたことを他人に伝えたくて、初めて観戦記を書いたのを覚えている。ある意味、この試合がきっかけで僕はプロレス記者への道を歩み始めたのかもしれない。この頃から武道館大会だけではなく、シリーズ開幕戦として行われる後楽園ホール大会にも足繁く訪れるようになっていた。
 敗北を喫したことで出直しを余儀なくされた川田は、さらに鋭さを増したように思えた。サマーアクションシリーズの開幕戦では菊地の顔面を打ち抜き半失神に追い込むと、その後の大会でも非情な攻めを続けていた。三沢という巨大な壁に弾き飛ばされたことで、精神的にも焦りや苛立ちが溜まっていたのかもしれない。
 逆に川田という最強の挑戦者を退けたことで、さらに勢いづいたように見えたのが王者・三沢。パートナーの小橋も成長し、スティーブ・ウィリアムス&ジョニー・エース組を相手に世界タッグ王座も防衛。5冠王として盤石の体制を築いたように思われたが、ここで緊急事態が発生する。ウィリアムスとの三冠戦で殺人バックドロップ連発を食らい轟沈。約2年に渡り7度の防衛を重ねてきたベルトを明け渡してしまったのだ。
 これにより、時代は大きく動き出す。次期挑戦者が小橋健太に決定したのだ。小橋は1年前の三冠挑戦者決定戦でウィリアムスに敗北、さらにこの年のチャンピオン・カーニバルでも敗れ優勝戦進出を阻まれている。『3度目の正直』として小橋初の三冠戦が組まれた。
 この試合についてここでは詳しく書かないが、最終的には殺人バックドロップの前に沈んだものの、勝利まであと一歩のところまで迫った小橋は、これをきっかけに三冠戦線で急浮上を果たすことになる。(小橋のプロレス人生を語る上で本当に大事なこの試合についてはまた別の機会で書きたい)
 小橋を退けたウィリアムスへの次なる挑戦者に浮上したのが、「年内にもう一度挑戦したい」と語っていた川田だった。チャンピオン・カーニバルではウィリアムスを優勝戦で破っており、資格は充分あると判断されてのタイトル戦だった。
 川田にとっては7度目の挑戦。三沢戦ばかりクローズアップされているが、ここまで同一タイトルに挑戦してベルトを手にすることが出来ない例もある意味珍しいことだろう。三沢にも敗れ、ウィリアムスにも敗れるとなれば、さらに追い詰められることになる。「馬場社長からもらえる最後のチャンス」と語っていた川田には凄まじいプレッシャーがかかっていたはずだ。
 それを力に変えた川田は、延髄蹴りで激闘を制し、悲願の三冠王座を手にする。もちろん川田の口から自然に初防衛戦の相手として三沢の名前が挙がった。
 しかし、次のシリーズは年末の風物詩である世界最強タッグ決定リーグ戦となる。三冠王者として三沢&小橋組の連覇は是が非でも防ぎたい。だが、最終戦となった武道館大会でのメインイベントにおいて、川田はハンセンのウエスタンラリアットを食らい、まさかのピンフォール負け。5冠王のチャンスを逃すどころか、結果待ちだった三沢&小橋組に優勝をプレゼントする形となってしまった。
 年が明けて、95年新春。川田の初防衛戦の相手となったのは小橋だった。短い間隔での三冠挑戦が実現したのは、この当時、小橋の試合内容がそれだけ充実していたからだ。小橋への期待感が高まり、いい意味で全日本には新しい風が吹くようになった。
 川田にとってはチャンピオンとして挑戦者の勢いを受け止めなければならない難しいシチュエーションだったと思う。ましてや決戦の舞台となった大阪では、わずか2日前に阪神大震災が起こっており、「被災者の方々の力にならなければ」という思いも強くあったはずだ。そんな熱い気持ちはリング上で激しく昇華され、試合はなんと60分引き分けとなった。小橋の成長はもちろん、川田も王者らしいファイトを見せるようになっていた。
 僕はこの試合の結果を東スポで見て、「いつか大阪府立で観戦してみたい」と思うようになった。その願いは数年後に叶うことになる。
 打倒・三沢を目指しながら、王者としての風格を身につけてきた川田。三沢戦実現はもや時間の問題かと思われた。しかし、川田にとってリベンジしなければいけない相手がもう1人。そう、それは最強タッグで直接フォールを奪われているハンセンだ。
 ラリアットの切れ味こそ落ちていなかったが、肉体的な部分では衰えも見え始めていた当時のハンセン。川田にとっては難しい相手ではないと思われていた。だがしかし、3月の武道館で迎えたV2戦で川田は涙の飲むことになる。ラリアットの前にまたもや敗北。やはり川田を全日本のエースと呼ぶのは相応しくないのではないか、そんなことが囁かれる中、三沢の三冠挑戦を求める声が高まりつつあった。そして、三沢と川田がリーグ戦で対決するチャンピオン・カーニバルがやってくるのである。僕の胸は日に日に高まっていた。




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