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第7回 三沢と川田と当時の僕(6)

 四天王対決――三沢光晴&小橋建太vs川田利明&田上明というタッグマッチは、ジャイアント馬場が驚きの声を上げるほど既に完成されていた。当初は小橋が一枚落ちるという見方もされていたが、三冠挑戦を果たしたことでそんな雰囲気もなくなり、完全に4人が横並びになっていた。
 ただ、横並びになったからこそ、三沢の存在感、強さが際立つことにもなった。差が縮まったからこそ、余計に差を感じるという不思議な感覚をファンであった僕も感じずにはいられなかった。
 前回書いたように、菊地毅が超世代軍から聖鬼軍に移籍し、小橋も三沢もタッグ解消をほのめかす発言をするようになったことで、4人の立ち位置にも微妙な揺らぎが生まれていた。川田は常に三沢を追いかける立場だったが、三沢はただ川田の挑戦だけを受け止めることだけをしていたわけではない。経験を重ね、苦闘も乗り越え、真の意味でエースとなったことで、今まで見えなかった景色も見えるようになり、一歩引いた部分も垣間見せるようになっていた。そんな内面の成長がジャイアント馬場との関係を少しずつ変えていくことになる。
「変化がない」「いつも同じ戦いをしている」そう揶揄する声が無かったわけではない。遺恨や因縁がなくても試合内容のみで勝負する姿勢は、観戦に来たファンには伝わっても、間接的に触れたファンには伝わりにくい部分があったことは事実だろう。しかし、変化がないわけでは決してない。深い部分で少しずつ気持ちや立場、戦い方が変わり、必ず一気に爆発する瞬間がやってくるのだ。
 通算して6度目の四天王対決は95年6月9日に日本武道館で実現した。この試合は42分37秒という長い時間を経て決着が付く。
 昭和時代にも試合時間が長くなることがあったが、意味合いは全く違い、試合のスピード感や技の過激さは明らかに別次元にまでなっていた。僕がプロレスを見始めた頃はシングル戦で30分を越えると、どよめきと共に拍手が起こる、なんて光景を何度も目にしてきたが、四天王対決(シングルを含む)は30分を越すのが当たり前になっていた。昔なら相手の出方をじっくりとうかがう、というような警戒心の強さが試合時間が長くなることに繋がることが多かったが、この頃になると最初から大技が繰り出される中で30分を超える戦いになっていた。文字通り“死闘”と言うべき試合が毎日のように行われていて、正直、この先にどんな風景が待ち受けているのか、僕にも全く見えない状況になっていたのを思い出す。凄い試合を目の前に提示され、興奮したり、感動したりする気持ちは当然あったが、畏怖にも似た感情を感じるようにもなっていた。
 42分もの間、川田と田上は三沢&小橋を攻めに攻めまくった。もちろん三沢たちにチャンスがなかったわけではない、が、川田は三沢の左目、小橋の左モモという負傷箇所を徹底的に痛めつけ、完全に試合を掌握。足を痛めて動けなくなってしまった小橋はそれでも三沢をかばおうとリングに入るが、強引に引き離されてしまう。鬼のように見えたが、それだけ川田と田上は勝ちにこだわっていたのだろうし、負けるわけにはいかなかったのだろう。
 負けるわけにはいかないのは三沢にとっても同じ。顔面を蹴られ、危険なバックドロップに被弾し、田上の断崖ノド輪落としまで食らっても、三沢は勝負を捨てない。しかしこの日、川田はそんな三沢の気持ちを折るように、大技を連発し、渾身のパワーボムで初めて三沢から3カウントを奪うことに成功した。
 プロレスに入ってから14年。三沢の背中を追い続けてきた川田は観客の声援に応え「今までプロレスをやってきた中で一番嬉しいです」と喜びを爆発させている。武道館の二階席で観戦していた僕も、ずっと試合を見届けてきた川田の初勝利を嬉しく感じていたが、同時に「ここまでやらないと勝てないのか?なんでここまで戦い続けられるのか?」という複雑な思いにも苛まれた。今、改めて当時の専門誌を読んでみると、四天王対決をレポートした記事からも、僕担当記者のうめき声のような重い想いが感じられる。あの頃、最前線で四天王プロレスを取材するという行為は、もしかするととてもキツイことだったのかもしれない。
 そんな思いを抱えている一ファンとは別に、川田も「今度こそ三沢光晴を超える」という悲壮な決意を固めていた。三沢からタッグながらも直接勝利を奪ったということは、次期挑戦者はほぼ間違いなく川田になるということだ。川田は試合後「また追いかけていきたい」と三沢へのこだわりを見せている。しかし、三沢は「負ける時もある」と意外にすんなりと事実を認めた上で、三冠戦での勝利を誓っていた。
 大きな視野に立って物事を見ている三沢に対し、やはり川田は三沢の背中しか見ていない。もしかすると、三沢の存在が川田というプロレスラーを成長させる上で大きな足かせになっているのかもしれない、そんなことを思いながら、僕は三冠戦としては4度目の三沢vs川田戦を見ることになる。




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