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第14回 三沢と川田と当時の僕(11)

『96’サマーアクション・シリーズ』は6・30後楽園ホール大会で開幕した。この頃になると、僕は完全にプロレスを中心にした生活を送るようになっていた。期末試験があろうと、学校行事があろうと、どんなことがあっても全日本の試合を見ることを優先にし、関東圏内の大会、例えば千葉公園体育館や横浜文化体育館の試合にまで足を伸ばすようになっていた。
 オブライトとのタッグ結成が浮上し、実際に対戦カードとしても発表されたが、川田はあくまでも対戦することを選択。カードが変更となり、最終戦となる7・24武道館ではシングルマッチが決定した。“刺激”を求める川田の気持ちはリング上でもハッキリと見て取れるようになり、ファイトも充実したものになっていく。
 全日本のファイトに順応するようになっていたオブライトに対し、「Uインター時代の危険な香りを取り戻せ」と挑発的なアピールを続けた川田は、3カウント無し、KOかギブアップのみが認められる格闘技戦ルールまで要求。シリーズ中盤戦の世界タッグ選手権では三沢&秋山組に敗れてしまったが、秋山とのシングルマッチでは飛びヒザ蹴りという豪快な打撃技で激勝し、いい形で武道館につなげた。
 最終的には通常ルールとなった2人のシングルは、川田が打撃戦で攻め立て、チョークスリーパーまで見せたが、覚醒したオブライトがジャーマン、フルネルソンスープレックス2連発という凄まじい攻勢に転じ、最後はスリーパーで絞め落として勝利。勝負という面では敗北を喫したが川田だったが、オブライトの持ち味を発揮させ、刺激的な戦いが出来たという意味では手応えを感じていたのではないかと思う。
 同日の武道館大会では小橋建太が田上明を破り、初めて三冠王座を奪取。着実に時代が動いていく中で、川田も自分なりに新しい一歩を踏み出そうとしていた。
 全日本の開国路線、川田のアピール、プロレス界が包まれた対抗戦ムード…その3つが重なり、ある答えが導き出された。川田のUインター参戦である。
 基本的には鎖国を貫いてきた全日本だったが、わずかではあるが変化が見えてきていた。オブライトの参戦もその1つであったし、メモリアル力道山への選手派遣なども以前ならば考えられない出来事だった。
 小橋や秋山が着実に成長し、全日本マットには活気に満ちていたが、一歩先にはマンネリ化の懸念もある。実際マッチメイクの面では目立たない形ではあったが、様々な試みが実戦されていた。他団体の動向を見た上で、ジャイアント馬場が交流戦を決断した形となった。
 まず馬場は一部新聞紙上で「Uインターとなら交流できる」と発言。過去全日本とトラブルのある団体や選手を除いて考えると、Uインターが一番現実的だと考えたようだった。Uインター側としても新日本との抗争は終焉にと向かっており、全日本側と思惑が一致。これは全日本らしいことなのだが、新日本のようにいきなり全面対抗戦などにはならず、基本的にはこの1試合のみという形だったが、それでも川田が他団体に参戦するのは大きな事件であることに変わりはない。
 川田と対戦するのは高山善廣。当初はベイダーとのシングル戦が予定されていたが、ベイダーがWWF出場のため急遽キャンセルに。ここで全日本側と接点を持ち、最初はハンセンの出場をオファーしたが、スケジュールの都合が付かず、最終的に川田の出場が浮上したのだった。
 もちろんこれを知った当時の僕は、すぐさま川田vs高山戦が行われるUインターの9・11神宮球場大会のチケットを購入。僕と同じように全日本ファンも驚きを隠せなかったようで、川田の出場が決まったことで1万枚近くのチケットが動いたという。
 当時の高山は安生洋二率いるゴールデンカップスの一員としてファンにも名前を知られる存在にはなっていたが、何かが足りない印象があった。新日本との対抗戦でも飯塚などから勝利を手にしていたが、その爆発が続かず、若手の域を超えるには至ってなかった。この試合は川田にとって大きな意味を持っていたことに間違いはないし、全日本の改革路線を象徴する事件でもあったが、今になって思えば、数年後にプロレス界を席巻することになる高山というレスラーが初めてインパクトを残したという部分で一番評価されるべき試合なのかもしれない。
 決戦前最後の試合となる9・5日本武道館大会では小橋の初防衛戦(vsハンセン)、ジョニー・エースの世界タッグ初戴冠(ウィリアムス&エースvs三沢&秋山)など好試合が続いたが、あくまでも話題の中心は川田だった。注目度の薄い6人タッグ戦に出場した川田だったが、館内からは異常なほどの声援が発生している。
 試合後、川田は「得体の知れないものは怖いよ。なめてかかったら潰されちゃうかもしれない」と緊張感を垣間見せながらも、「今の気持ちを言うなら、久々に刺激が求められる、かな」と充実した表情を覗かせていた。




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