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第2回 真実はリングにある

 モバイルゴングが実質更新をストップして約半年――。この8月、僕は久々に“現場”に戻ってきた。何度か観客として会場に足を運んでいたとはいえ、ここまでプロレスから距離を取ったのは中学生の時にプロレスを見るようになってから初めてのことかもしれない。
 休止期間中に改めて思い知ったのは、自分から積極的に情報を求めなければ今のマット界の流れを追うことが出来ないということ。今や『東スポ』を毎日読みながら、いくつかの週刊誌・月刊誌を購入し、さらに複数の携帯サイトを日に何度もチェックしなければ全体の動きなんて把握できない。労力を惜しんで情報を入手しなければいけない時代というのは難儀なものだなと痛感したが、『週刊プロレス』を毎週買い、時折携帯サイトもチェックしていてもこれなのだから、一度離れてしまったファンにもう一度プロレス熱を植え付けるのは大変な作業になると思う。
 そんなわけで今の僕は、プロレス会場で取材をしながら、少しずつ自分の身体に現在のリアルなプロレスを馴染ませる作業を続けている真っ最中なのだ。
 やはり会場に取材に行くと「戻ってきたんだな」と実感する。そして、プロレス記者の基本はあくまでもリング上で起こったことを取材することなんだなと改めて思う。いくら誌面を読んだり、人の言葉で伝え聞いても、実際の空気感というか、直接的な雰囲気は会場で見なければ本当のところは見えてこないからだ。
 実はこの部分が現在のプロレス記者に一番足りていないんじゃないか、そんなことを最近思うようになった。
 僕が今、一番プロレス記者として素晴らしい仕事をしていると考えているのは、メジャー団体のオフィシャル携帯サイトの記者だ。日本中で行われる試合に全戦帯同し、全ての試合の速報をリアルタイムで書く。さらに試合後のコメントや記者会見、コラムに日記まで担当しているのだから、かなりキツい仕事になる。ましてやネットのメディアは文字制限も、締め切りもない。その分、仕事時間は不規則になり、夜中まで仕事になるのは当たり前。肉体的にも精神的にもギリギリの仕事だ。
 全てを取材しているのだから、この人たちは担当している団体の流れや会場の雰囲気を一番肌感覚で知っている。それを毎日ファンに伝えていってもそこにはブレがないし、ファンが一番知りたい情報をダイレクトに届けているのだから、もっともっと評価されていいんじゃないかと僕は横目で見ていても思う。
 よくインターネットや携帯サイトが普及したから雑誌は売れなくなったと言われるけれど、プロレス業界に限ってはその意見が正しいとは思えない。なぜならネット系の記者の方が明らかに他の記者よりも会場に足を運び、リング上の戦いを必死に見つめ、選手の声に耳を傾け、多くの“真実”をファンに発信しているからだ。
 そんなモバイル系記者以上の努力をしているのか?その問いに自信をもってYESと言える記者は絶対にいないはずだ。同じぐらいの労力を別の方向にかけて、ネット記事のその先をファンに伝えることは不可能じゃない。反発したり否定するのではなく、いいところは吸収していくことが大事なんじゃないだろうか。
 情報が溢れている今、プロレス記者=ファンよりも詳しいという当たり前だった方程式が当てはまらなくなってきた。“活字プロレス”なんて言葉があるが、もしそれが文字通り“活字でプロレスをする”ことなら、実際のプロレスと同じように、血の滲むようなトレーニングが必要なはずだ。基本的なことをしない人は、もう通用しない時代になってきている。
 僕がファン時代から常に思っていたのは「真実はリングの上にある」ということ。会場に行かなければなにも見えてこないし、それこそ記者としても何も伝えることなんて出来やしない。やれ「切り口が大事だ」とか、「要は感性なんだ」「プロレス的な考えで世間を斬る」とか言っても試合を見なければ意味がないし、いくら選手と仲良くなっても、関係者から裏の事情を聞けたとしても、会場の雰囲気を生で感じなければいい記事なんて書けやしない。
 僕は『Gスピリッツ』創刊に立ち会い、やっと専門誌に関わる立場となったが、あくまでも「真実はリングにある」というスタンスを守り、空気感や人々の思いを感じられる記者でありたい。それができなければ、どんなに美文名文が書けるようになっても記者失格だと思っている。



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