コラムバックナンバー一覧

第5回 バカたちが集うリング

 他の携帯サイトのコラムを読んでいると、結構“独自取材”ものを見ることがある。誌面には載らないけれど、ファンからすればちょっと嬉しい、選手の素顔が垣間見える話が多い。実際に取材現場でも「これをコラムのネタにするか」とか「この話をコラムに書きますね」なんて言葉を耳にすることがある。
 しかし、自分のコラムを読み直してみると……独自取材なんてまったくないじゃないか!まあ、言ってしまえば僕が人見知りなだけなのだが……。
 記者となってから4年も経てば、プライベートでも仲が良い選手がいてもおかしくないし、ファン目線の一般的なイメージからすると、相談を受けたり、毎晩のように飲み歩いたりする同世代の選手がいて当然なところなのだろうけど、まったくそんなことがない。
 勝手に屁理屈を言うなら、選手と仲が良いからといって良い記事が書けるわけないし、逆になあなあになってしまう可能性だってある。まあ、なにを言ったところで、結局問題なのは僕個人の資質なのだけれど。
 だから、例えば選手の電話番号なんてほとんど知らないし、ましてやかかってくることなんてまったくない。……いや、1人いた。ホントに年に数回だし、かかってきても「イリミネーションマッチってどんなルールだっけ?」なんていうどうでもいい話なのだが。その相手は池田大輔だ。
 僕と池田は妙な縁がある。と言っても一方的な縁なのだけれど、僕が初めてインタビューしたのがNOAH所属時代の池田だった(ちなみにヨネも一緒にいた)。実際のイメージとは裏腹につかみ所のない話し方をする池田へのインタビューは、業界歴半年以下の素人記者では荷が重く、無言になることが多かった。1時間の予定が30分ほどで聞くことがなくなり、逃げるようにして帰ったのを覚えている。
 それでも、それがきっかけに会話のリズムも掴めるようになったし、取材をする回数も増えた。NOAH所属時代最後のコメントを取材したのも僕だったし、当然池田が立ち上げたバチバチの会見や大会を取材することも多かった。要は僕は勝手に『池田番』だと思いこんでいるのである。
 NOAHに所属していた頃の池田は端から見ても空回りしていた。自分がしたいことと、団体のスタイルと、ファンの求めていることのバランスがまったく取れておらず、なんとなくハードコアなファイトをしたり、急に格闘技色の強いファイトをしたりと迷走しているように見えた。だからこそ、石川雄規と再会(バトラーツマットで実現)した後、桂スタジオの駐車場で見せた池田の充実した表情が印象に残っている。そこには空回りや迷走は存在せずに、見違えるほど輝いた池田がいた。この瞬間が池田にとって転機だったと思うし、フリーとなってバチバチを立ち上げたのは言わば必然だったはずだ。
 モバイルゴング時代も取材に行くことが多かったが、会社があんなことになってしまってからなんとなく挨拶しないままここまで来てしまっていた。しかし、Gスピリッツを立ち上げたこともあり、やっと先月末に行われた『バチバチ8』で池田に直接挨拶することができた。まあ、大した会話もなく「なんか痩せたんじゃないの?」と言われただけだったけれど。
 大会会場で配られたフライヤーにはこんなことが書かれていた。
「私事ですが、最近気になったことがひとつ。他団体でのプロレスの試合でバチバチっぽい試合をして、選手もマスコミも“これがバチバチだ”と言っていること。遺憾です。ちょっとだけ殴り合って、プロレスしたって全然駄目だよ。(一部略)便乗されても、粉骨砕身、バカバカしいことを地味にやっておりますが、どちら様もお楽しみくださいますよう、お願い申し上げます」
 この言葉を聞いて、ほとんどのプロレスファンが「偉そうになに言ってんだ?」と疑問に思うかもしれない。しかし、本当にこのバチバチというリングは“バカバカしいことを地味にやっている”リングなのだ。
 かつてUWF系の団体や修斗なんかに見られた“シーン現象”がこのマットには存在する。観客たちは固唾を飲んで無言でリングを見守り、打撃の衝撃音を聞くと「…ォォ」と声にならない声を上げる。それがちょっとずつどよめきに変わり、最終的に歓声となる。けれど、最後が壮絶なフィニッシュだったりすると、前半と同じようにシーンとなってしまうことも多々ある。これまでの流れなんてどうでもよくなるほど、情念が沸き立つ男と男のぶつかり合いには人の心を引き込む力がある。
 一番心に残っているのが、試合後の選手が一様に笑顔を見せていたことだ。例えばメインイベントで池田と戦った石川修司。世代交代を訴えてぶつかっていった石川だったけれど、凄まじい頭突きなどを見舞ったものの、最後はグーパンチ&アッパーの連打から顔面蹴りを食らって轟沈してしまった。リング上でのマイクアピール時には悔しさに涙まで見せていたが、バックステージに戻ってくると、少しずつそれが笑顔に変わっていったのだ。額に大きな大きなたんこぶを作り、顔面を腫らしていたけれど、達成感を感じさせるその笑顔はなんだかとってもよかった。
 格闘技系のスタイルを見せるプロレスラーには「総合格闘技やキックボクシングには通用しなかった(または通用しない)人」というレッテルがつきまとう。今の時代なかなかUWFスタイルが通用しないのもそこに原因がある。しかし、バチバチスタイルはプロレスだとか格闘技だとかの括りを作るのが無意味に感じるほど、本当の“バカ”しかできないプロレスだと思う。どんなに有名な格闘家だってプロレスラーだってこんな馬鹿げたことを普通はやらない。僕だって選手になったとしてもこんなスタイルをやろうとは思わないだろう。
 拳で相手の顔面を殴りながら、笑顔まで覗かせる選手たちを見ていると、凄く羨ましい気持ちにもなるし、うまく言葉で表現できないけれど、直で心が揺さぶられる。全ての人にあうとは思わないし、全プロレスファンから賞賛されたりしたらそれもそれで間違っているような気がしないでもないけれど、とにかく興味を持った人は“バカ”たちの戦いを見に来て欲しい。




<<Back  Next>>
コラムバックナンバー一覧トップ
(C)辰巳出版