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第6回 “等身大の男”が迎えた崖っぷち

 無風状態になったと思われたNOAHマットが熱を帯びてきた。その中心にいるのは潮崎豪。GスピリッツVol.2でも掲載しているが、プレデビュー戦から取材してきた僕としては業界同期の潮崎が頑張っている姿は素直に応援したくなる。(同期なんて言っても、前回書いたように特に仲が良いわけではないのだけれど)師匠である小橋の復帰も決まり、さらに勢いが付いてきそうだ。
 そんな中、僕が密かに気になっているのは、実はまったく別の選手…その男の名は橋誠だ。
 モバイルゴング時代に始まった僕のこのコラム。知っている人はほとんどいないと思うが、記念すべき第1回に取り上げた選手が橋だった。その時、僕は橋のことを「丸藤やKENTAが持っていない“等身大”という魅力を持った選手」と書いた。あれから1年近く経ち、橋にはどんな変化が起きているのだろう。ちょっと期待しながら、僕はGスピリッツ所属として初めて前回のツアー開幕戦となった後楽園ホール大会の取材に向かった。
 久々に訪れたNOAHの会場はやっぱり自分のホームみたいに感じた。いくらテレビ中継やG+の生放送を見たり、専門誌の記事を読んでも、やはり実際に生で試合を見てみないと、本当の意味で選手の変化を掴むことは出来ない。森嶋への期待感はさらにアップしていたし(だからこそ誌面でも扱わせてもらった)、KENTAには“俺がNOAHの中心なんだ”という激しい感情を感じた。丸藤や杉浦、ヨネたちの世代からも、そして若手選手からもそれぞれ技や動き、気持ちの部分で変化を感じられて、NOAHマットが変わろうとしている胎動みたいなものが見えてきた。
 しかし、ただ1人、そこから取り残されているように見えた選手がいる。それが今回の主役である橋だ。
 今行われている最新のツアーの対戦カードを見た時、僕が一番驚いたのは(僕だけかもしれないが)、田上明&潮崎豪&橋誠組というカードがあったことだ(10・16岡山大会)。実際にこの3人がタッグを結成すること自体珍しいことだけれど、それよりもなによりも、潮崎の方が橋よりも名前が前に来ていることに驚いたのである。
 今回のツアーで開催されているGHCタッグ王座決定リーグ戦に田上とのコンビで潮崎がエントリーしているからという側面もあるだろうし、僕が感じたほど団体としても他意はないかもしれない。しかし、潮崎の方が橋よりも上に名前を連ねていて、それに対してファンやマスコミから特に反応がないのは、とても寂しいことだと思う。
 今、橋はとても難しい立場にいる。これまでの橋自身の言動を振り返れば、先日行われたNOAH初のリーグ戦にどうしても出場していなければいけないはずだった。実際に出場者を見渡しても、当落選上にいたのではないかとも思う。しかし、橋よりも遥かに後輩の潮崎が抜擢され、橋はリーグ戦に絡むことが出来なかった。
 森嶋は以前から「自分よりも上の選手とシングル戦をしたことがない、だからこそ戦いたい」と訴えてきたが、同じ年にデビューした橋にしてもそれは同じなはず。だが、その舞台に出場することが出来ず、そして「出場させて欲しかった」とか「なんで出れないんだ」というファンからの反応がほとんどなかったことが、今の橋の立場がかなり厳しいものであることを如実に表している。
 僕が取材した後楽園大会で、橋は師匠である秋山&金丸と対戦していた。かつてスターネスに所属していた頃は刺激的な絡みだったけれども、ある意味、これが当たり前の風景になってきている。橋は秋山に必死に噛みついていった。その気負いや焦りを感じさせる姿はやっぱり良くも悪くも等身大だった。
 秋山の顔面を張る。急所に頭突きを落とす。師匠への激しい攻撃は場内を沸かせる。もちろんその後には秋山の倍返しが待ちかまえている。橋は必死に食らいつき、最終的に谷口からピンフォール勝ちを奪い取ったが、対秋山という意味では、その倍返しを耐えるのが精一杯だった。
 これが数年前だったら僕も橋を称えていたかもしれない。闇雲に突進し、玉砕を遂げるようなスタイルで問題なかったし、それでファンからもある程度の評価をもらうことが出来た。けれど、若手選手も増えてきたことで、橋はそれだけでは許されない位置になってきている。森嶋や丸藤、KENTA、杉浦、そして潮崎も、その1歩も2歩も先まで進んでいる。思い切りぶつかって、返されて、それを耐えきって、さらに激しい攻撃をぶつける。そうすることで、師匠や先輩という存在は形だけのものになり、本当の意味でライバルとなることが出来る。やっと勝負論が生まれてくる。しかし、橋にとってまだ秋山は師匠であり、越えられない壁であって、その先の景色が一向に見えてこないのだ。
 決して橋は恵まれていない選手ではない。GHCヘビー級王座を除き、他の全てのベルトに挑戦した経験もある。一度はアクシデントながらもベルトをその腰に巻いたことだってある。たとえ負けたとしても、どのタイトルマッチでも印象に残るような戦いをしてきたはずだ。ヘビー級転向を表明したのだって、丸藤や杉浦よりも先だった。怪我に泣かされた部分はあったとしても、橋自身に“なにか”が足りないのは紛れもない事実なのだろう。
 僕はGスピリッツの誌面で、森嶋のことを「来年で30歳。デビュー10周年という区切りを迎える」と書いた。橋にとっても来年はデビュー10周年。ましてや年齢は30歳を既に超えている。秋山が冗談で「橋はラーメン屋をやるんだろ」と言っていたが、シビアな話、これからラーメン屋をやることを選ぶことすら難しい年齢にさしかかってきている。そこに必要なのはやはり橋の心の底から湧き出てくる強烈な意志だ。
 結果にはつながらないかもしれない。対戦カードにも反映されないかもしれない。それでもいいじゃないか。単純にフィジカル面を鍛え直すのだっていいし、根本的にスタイルを変えたっていい。それどころか表面的にはなにも変わらなくたっていいんだ。1つ1つの試合にありったけの気持ちを込めて、完全燃焼をしていくことが出来れば、その先に見えてくるものがあるはずだ。到底敵いそうもない先輩、強すぎるライバルたち、激しい突き上げを見せる後輩――厳しすぎる状況だからこそ、これまで背負ってきた“獣道”を今こそ貫いて欲しい。そこには橋がもっともっと輝ける場所が必ずある。




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