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第7回 プロレス界を盛り上げるのに必要なもの

 最近、どうもプロレス会場にいても物足りない感じがする。試合内容が悪いわけでもないし、レスラーに問題があるわけでもない。客席も埋まっているし、なぜだろう……と考えて、ふと気がついた。どうやら僕は観客のある反応を物足りなく思っているようなのだ。
 そう、それは『野次』。今回はプロレスに付き物の野次について書いてみたいと思う。
 最近のプロレスを眺めていて感じるのは、観客参加型の応援が増えてきたことだ。“ハッスルポーズ”に“マッスルポーズ”、“3・2・1、ゼロワン、ウ〜マックス”もそうだ。「皆さんご起立ください」という言葉を大会の締めに聞くことが増えてきたが、ほんの数年前まではこんなことは滅多になかった。
 他にも決めゼリフなんてものもある。これはWWEの影響だと思うが、アメプロブームがやってきた時に爆発的に増えた。(ロックやオースチンはそれだけカッコよかった)
 最初に断っておくが、僕は別にそういう応援方法を否定しようと思っているわけではない。客席と選手の間にある溝を埋めて、一体感を作り出すことができるし、それが会場の盛り上がりや観客の満足感にもつながる。
 しかし、さじ加減が難しいのもまた事実で、ふと一歩引いて見てみると、「一見さんには入りにくい世界かもなあ」と感じることがある。一番大事な試合内容とそれに伴う観客の熱狂がなければ、強引に締めている感は否めない。
 もう1つ気になるのは、紙テープや応援ボードなどの応援グッズ。これもまたプロレス独自の文化で、参加するにはもってこいのアイテムなのだが、「みんなが持ち寄った」ではなく「一部の人だけが盛り上がっている」という場面に遭遇するとちょっと寂しい気分にもなる。
 プロレスに観客という要素は欠かせない。選手のファイトに観客が悲喜交々の反応することによって、相乗効果を生み、爆発的な盛り上がりを作り出す。観客次第で凡戦が名勝負にもなるし、もちろんその逆だってあり得る。ここまで観客がパワーを持つ分野は他にないだろう。
 だが、最近のプロレス界は応援の仕方が一様になってきてしまったというか、淡泊になってきた気がするのは僕だけだろうか?○○コールが起こっても、よく耳を澄ませると、声を出している人が少ないし、じっくり客席を見渡すと、後方の客席では腕を組んでみている人ばかりの時もある。そういう場面で「ここで絶妙な野次が飛べば盛り上がるのに」と思うことが多々ある。
 難しいのは『迷惑な野次』と『センスの良い野次』の境目が曖昧だということ。人によって感じ方は違うわけで、誰かにとっていいことが、他の誰かには悪いことである可能性もある。執拗に意味不明なことを野次って周りのファンに迷惑をかける行為は決して認められるものではない。しかし、そうやって他の観客を引っ張っていく野次が聞かれなくなってきたのは、プロレス界にとって損失だと思う。
 例えば90年代の三沢vs川田戦なんかを観戦に行くと、だいたい試合前には自然発生的に両者のコールが巻き起こった。当時は自然に感じたが、最近のプロレス界においてそんな現象が起こることはほとんどない。一方から「三沢〜三沢〜三沢〜三沢〜」なんて声援が飛べば、逆側から「川田〜川田〜川田〜川田〜」と返すファンがいて、それが何度も続いたりしていた。休憩時間にウェーブが起こることもよくあった。それは選手から求められたわけでもなく、一部のファンだけがやっているわけでもなく、プロレスを見るという興奮が集まって自然発生したものだったんじゃないかと思う。
 僕がファン時代に後楽園ホールならバルコニーで、武道館なら2階席の前方で観戦することにこだわっていたのは、そういう観客の盛り上がりを自分の背後に感じると、グーッと背中が押されて、リングに沢山の気持ちが集中していくように感じていたからだ。センスの良い野次に選手が反応して、そのキャッチボールが心地よい盛り上がりを作る。そんな場面がかつてのファミリー軍団vs悪役商会にはあったし、反対にパンクラスにあった“シーン現象”も方向は逆でも同じベクトルにあった行為のような気がする。
 逆に言えば、そういう声援を起こす雰囲気を持った選手や団体が少なくなってきたのが理由なのかもしれない。大日本プロレスの関本大介に注目が集まってきているのは、そういう声援を飛ばしたくなるような匂いを持っているからだと思うし、小橋建太がここまで評価されているのも、みんなのそういう声援を集める雰囲気と存在感がそうさせるのだろう。
 極めポーズでの締めというのも嫌いじゃないけれど、激闘の余韻に浸るような終わり方があってもいい。そろそろプロレス界もお決まりのパターンを押しつけるのではなくて、しっかりと昔のような熱い声援を呼び込むための作業をしていった方がいいのではないだろうか。そして、そのためにも会場を訪れた際には、みなさんにはもっと積極的に野次を飛ばしてもらいたい。もちろん周りの空気を気にすることは忘れずに。
 かくいう僕も後楽園のバルコニーから、百田応援団と一緒に百田コールを送っていたことある。今になれば良い思い出だ。そんな経験を最近プロレスを見始めたファンにもぜひして欲しい。結構気持ちいいもんですよ。




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