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第9回 小橋と秋山、小橋とマスコミ、それぞれの思い

 ツアー終了後の恒例となっているNOAH役員会を取材した。かつて僕がNOAHオフィシャル携帯サイトを運営していた頃は取材陣が少なく、単独で三沢にコメントを聞いたこともあったが、最近は各メディアが集まり、同日に記者会見が行われることも少なくない。NOAH担当記者との情報交換の場にもなるだけに、基本的には必ず顔を出すようにしている。
 ましてや小橋建太が腎腫瘍のため欠場するようになってからは、唯一定期的に話を聞ける機会は役員会後しかない。手術後の経緯や練習メニューの変化などはこの席で報告されていた。10・27武道館で復帰戦のカード(小橋建太&高山善廣vs三沢光晴&秋山準)を発表したばかりということもあり、今回も多くの記者が集まっていた。
 既に様々な媒体で記事になっているのをご覧になった方も多いと思うが、明らかに小橋の表情や雰囲気が変わってきていた。単純に筋肉が戻ってきたとか、日焼けをしたということではもちろんない。どっしりとした余裕も感じられたし、復帰戦に向けての気合いも見て取れた。
 熱い言葉の中には冗談も出てきて、何度も記者団から笑いがこぼれたが、前回・前々回のコメント時にはそこまでの余裕はなかったし、記者団にはツッコミを入れたり、笑ったりすることに正直ためらいがあった。それだけ小橋の言動や肉体から感じ取れるオーラのようなものが変わってきたのだろう。病気が病気だけに楽観視は出来ないし、記者たちも小橋本人もそうするつもりもないだろうが、少しホッとした部分もある。
 そんな雰囲気を伝えるべく、今回はこの取材時に起こったマル秘エピソードを紹介したい。
 この日はちょうどインフルエンザの予防接種も行われており、秋山準も事務所に姿を見せていた。ソファーに座って秋山が記者と談笑していたところに姿を現した小橋は、いきなりその横に座る。あまりにも近くに座ったために驚いた秋山だったが、ここがチャンスといきなり小橋に対して仕掛けていった。
「この前、武道館で小橋さんが喋っている時に、僕が通るとみんな笑っているんですよ。記者の人が“長いでしょ?”みたいな顔で(苦笑)。やっぱり同じこと3回ぐらい喋ってますって、谷口も笑ってましたよ」
 含み笑いを浮かべて、付き人である谷口を睨みつける小橋。「笑ってないです…」と直立不動で戸惑う谷口に対し、微笑を浮かべた小橋は「その空間にいて幸せになっただろう?」と問いかける。「はい、なりました」と必死に頷く谷口だったが、秋山はさらに谷口を追い込んでいく。
「飯食っている時に言ってましたよ。小橋さんの時はラーメンばっかりだったんで」
 小橋がラーメンを普段から食べないと主張すると、さらにコメント。
「でも、言ってましたよ。正直、小橋さんより秋山さんの方がいいですって」
「ああ、そう…」と素っ気ない態度で純朴な付き人を見つめる小橋。谷口は首を激しく横に振って「いいえ、いいえ」と否定。それを見た小橋と秋山は爆笑していた。
 こんな話を読むと「対戦が決定しているのに、なんでこの2人は仲がいいんだ?」と思う人もいるかもしれない。しかし、小橋と秋山にはそんな言葉は愚問になる。今までも普段はこんな風に冗談を言い合いながら、ひとたびリングに上がれば激しい戦いを見せてきたのだ。
 2004年の東京ドーム大会を思い出して欲しい。信頼関係があるからこそ命を削るような死闘をすることが出来る、2人はそんな関係なのだろう。小橋が帰ってきたことで一番張りきっているのは、実は小橋自身ではなく、もしかすると秋山かもしれない。
 逆に言うなら、小橋も秋山もそんな軽口を叩けるようになったということは、それだけ本気になっているということの表れでもある。2人のそんな掛け合いを笑って聞きながら、「ああ、小橋が本当に復帰するんだなぁ」と改めて実感をした。
(ちなみに小橋がコメントを出している際に、記者団に混じって橋誠が後ろから話を聞いていたのだが、小橋に「そこの記者、なにか質問はないのか!」と詰問され、「もう聞きたいことは全部聞かれちゃったんで…」と逃げるようにして去っていたのも笑いを誘っていた) 
 小橋のコメントで、記者団が一番反応したのはコスチュームについて。テーマ曲である『GRAND SWORD』は変えないと即答したのに、コスチュームについては言葉を濁したのだ。 
「タイツは今、デザイナーと話している状況で。というか、話し合いは終わったんだけどね…」と、曖昧に答えた小橋。スポーツ紙の記者が「どういう形になるのか、大きく変わるのかはまだ秘密なんですか?」と問い詰めても「秘密というか…。まあ、当日を楽しみにしてください、それは」としか答えない。
 そこで、僕が「色はデザインがかなり変わっている可能性もあるんですか?」とさらに質問を飛ばすと、間髪入れず「当日を楽しみにしてください!」と宣言。さらに「小橋さんのメッセージを込めたデザインなり、色になるということですか?」という質問を他の記者がしても、またしても「当日を楽しみにしてください!」と連呼。小橋を囲むマスコミ、関係者、そして小橋自身からも笑いが起こったのは言うまでもない。
 さらに質疑応答が全て終わり、立ち上がったところで僕と目が合うと、「秘密だからね。当日までの秘密」とまたしても強調してきた。「見たら変わっているかちゃんと分かるんですよね?」と再び聞いても「さあ。どんなのか分からないよ」と煙に巻く。マスコミもこうなったらもう一声と「オレンジでしょうか?」とかつてのタイツの色を指摘すると「さあ。何色になるか分からないんだよ。知っているけど分からない(笑)」とニヤリ。最終的には「うるさいなぁ(笑)。当日を見てくれって」と笑顔で去っていった。
 他にもこんな言葉があった。高山が小橋が張り切りすぎないか心配していると聞くや、
「そんなことはない」と即座に否定したが、声には力が無く、記者団から含み笑いが巻き起こった。「しっかり帝王に頑張ってもらうよ……と言いながらも、リングに上がったら分からないよ(笑)。それは分からない!」と今からはやる気持ちを抑えきれないことを認めると、記者たちからの笑いはさらに大きくなった。
 たぶん、僕以外のマスコミも小橋とこんな風に冗談を言い合うことが出来て嬉しかったのだろう。そして、少し離れたところで興味なさそうにパチンコ雑誌(辰巳出版から発売中の『パチンコDREAMS』では僕も執筆しています)を読みながら、実は聞き耳を立てていた秋山やNOAHのスタッフもそんな気持ちになっていたのだと思う。
 実際の試合になれば、そんな気楽なことは言っていられないし、これから小橋が進もうとしているのはイバラの道であることに変わりはない。しかし、復帰戦に向けての気持ちを聞かれて「気持ちはいつも100%だから。いつもどこでも変わらない」と宣言した小橋を見て、見守るファンや記者も気持ちを前に進めていいのではないかと思うようになった。
 そう、小橋はいつも100%で戦ってきた。東京ドームだろうと、地方大会だろうと、海外だろうと、どんなに観客が少なくても、その時にできる100%を見せてきた。それはどんなにきつい立場の復帰戦だろうと変わらない。そして、これからも変わることはないのだ。




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