コラムバックナンバー一覧

第18回 人の気持ちが人の気持ちを集める

※新年あけましておめでとうございます。相変わらず稚拙な内容ですが、本年もどうぞよろしくお願いします。


 大晦日には様々な興行が行われたが、このコラムを読んでいる皆さんは果たしてどの興行を見たのだろうか?『ハッスル祭り』『Dynamite!!』『やれんのか!』などをテレビで観戦した方も多いだろうし、プロレスサミットやジュニアオールスター戦を実際に会場で観戦された方もいるかもしれない。
 僕は5年連続でさいたまスーパーアリーナの取材を担当した。『ハッスル祭り』も充実した内容だったと思うが、今回は『やれんのか!』について書いてみたい。
 対戦カードを見て、集客的には苦しいんじゃないかと思っていたが、フタを開けてみれば客席はビッシリと埋まっていた。それどころか、試合が始まる前から熱気ムンムンで、「早く試合が見たい!」という期待感で満ちあふれていた。
 僕が思い出したのは、NOAHの12・2武道館大会。小橋の復活を前にして、はやる気持ちを抑えられずにいたNOAHファンと、『やれんのか!』というPRIDEの空気感を可能な限り再現したイベントを前にして「もう一度あの戦いが見たい」と感じずにはいられなかった格闘技ファンの気持ちは、とても近かったのではないかと思う。
 最初から出来上がった会場を前にして、観客以上に出来上がっていたのが選手たちだった。入場式で印象的だったのは、青木真也が早くも涙を見せていたこと。試合直前という独特の緊張感の中でも激情を抑えられなかった青木を見て、正直僕自身もグッと来てしまった。
 もちろん試合でも各選手が自分の気持ちを見せてくれた。川尻達也、瀧本誠、石田光洋、前半戦に出場した日本人3人は、試合が出来る喜びと、これまで溜めに溜めてきた鬱積を思う存分爆発させていた。
 そして、なによりも三崎和雄vs秋山成勲戦。かつてPRIDEの試合を取材した時、オープニングの「ダン、ダン、ダダン」を聞くたびに、何とも言えない悲壮感を感じずにはいられなかったが、この試合はその頃とまったく変わらない感情を呼び起こしてくれた。試合前も、そして試合後にもいろいろな報道や意見が巻き起こっているようだが、ここではあえてそれには言及しない。ただ、表現はチープになってしまうが、あんなヒリヒリとした緊張感と圧倒的な現実を突きつけるような激闘をした2人に賛辞を贈りたい。
 また煽りVTRもやっぱり凄かった。30歳を前にして涙腺がゆるみだしている僕は、実は毎試合煽りVTRを見て、泣きそうになっていた。
 人の気持ちを繋ぎ、導き、集結させる力を生むのは、やはり人の気持ちだ。今回のイベントに懸けた選手やスタッフ、関係者の気持ちがファンに届いたからこそ、圧倒的な熱狂を生む磁場が創り出された。NOAH12・2武道館でも同じことが言える。そして、そこにプロレス・格闘技界が復興を遂げるための答えがあるような気がする。
 もちろんそういう気持ちは、シビアな話をしてしまえば見せかけだけのことが多いし、商業的な意味合いを否定することも出来ない。真摯に臨むことが偉いわけではないし、他にも方法論や簡単なやり方だってあるかもしれない。ただ、安易なやり方で計算して作られたのではなく、沢山の戦いと熱い気持ちが長い時間積み重なり、熟成された場所だったからこそ、日本武道館に、さいたまスーパーアリーナに、凄まじい熱気が生まれたのだ。
 僕は更新作業のため、カウントダウン終了後、足早に記者室を後にしたが、ふと思い立って会場を出る前に客席をのぞき込むと、ほとんどのファンが席を立たずに、選手たちの新年の誓いを晴れやかな笑顔で聞き入っていた。簡単なことではないけれど、しっかりとした姿勢と気持ちを持って進んでいけば、プロレスや格闘技に再び今回のような熱を呼び戻すことは絶対に出来るはずだ。




<<Back  Next>>
コラムバックナンバー一覧トップ
(C)辰巳出版