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第10回 KENTA=エースの図式

 以前のコラムでGスピリッツの記者として大会を取材し始めた時のことを書いたが、最初に行った会場はNOAHの後楽園大会だった。森嶋猛への期待感の大きさや、現時点でのNOAHの現状を感じることができたが、一番僕の心の中に響いたのはKENTAの存在感だった。
 果たして僕の意見が正しいのか、的を射てるのかは分からないが、気にせず書いてしまおう。その時感じた印象を一言で表すなら“NOAHの今のエースはKENTAなんだ”という感覚だった。
 メインイベントやセミファイナルでもなく、特にマスコミから見てもテーマがある試合でもない。そんな戦いでも、KENTAは自分なりにテーマを導き出し、己の感情を高め、それを観客に感じ取らせるだけのファイトをしていた。例えば技が変わったとか、新しい動きが加わったとか、そういう表面的な意味ではなく、身にまとったオーラというか、全身から発散される雰囲気というか、心の底から沸いて出てくる感情が以前と比べて格段と変わった感じを受けた。そういう変化は自然と出来るものではない。それだけ意識的に自分を変えてきたのだろう。
 僕が記者に成り立ての頃のKENTAのイメージは“いつも丸藤と一緒”だった。記者会見や試合後のコメント、イベントなどを数え切れないほど取材したが、互いに「仲良くない」「プライベートは別々」と言いながらも、2人の会話はまるで漫才のようで、どんな時も丸藤がぼけると、KENTAはしっかりと突っ込みを入れていた。あうんの呼吸とでも言えばいいのだろうか。2人の間には相性の良さが確かにあった。
 だが、あくまでも“丸藤が上でKENTAは下”という立ち位置は動かなかった。いくら「対等の関係」と言っても、例えば丸藤が長男ならKENTAは次男、丸藤が委員長ならKENTAは副委員長、そんな間柄であるのは否定しようのない事実だったと思う。
 しかし、GHCジュニアタッグ王座を防衛していく中でそういうほんわかとしたムードが徐々に消えていく。七番勝負の効果も大きかったのかもしれない。正直、最初はKENTAが七番勝負をすることに対して僕は違和感を感じていたが、激しい戦いが続く中で、そんな気持ちはまったくなくなっていた。
 普段挨拶を交わしたり、雑談をする時の印象は今でもまったく変わっていない。文字通り『好青年』で「友だちにこんな男がいたらいいだろうな」なんて思うことが多々あるし、それだけ距離感も近しい感じがする。ただ、ひとたびリングに上がると、KENTAはピリピリとしたオーラをまとった1人のプロレスラーとなり、さっきまで普通に会話を交わしていたのが嘘のような遠い存在になる。そういう落差がKENTAの大きな魅力の一つだと思う。
 もちろん雰囲気が変わっただけでは人気は出ない。それにプラスして、試合のクオリティーが高いのが大きな要因になっている。週刊プロレスでもKENTAの何気ない試合をあえて取り上げていたが、どんなカードであろうと、今のKENTAはしっかりとテーマを見つけて、自分の魅力を存分に発揮した戦いを見せている。
 どんな会場でも、どんなシチュエーションでも100パーセントの戦いを見せる。これは小橋建太の信条だが、それを実践してきたからこそ小橋の絶対的な人気がある。GHC王座を何度防衛したとか、東京ドーム大会でメインを張ったとか、そういうインパクトのあることよりも、どんな小さい会場でも、どんなきついシチュエーションでも、その時に出来る精一杯のファイトをしてきたことこそが、地に根を張った本物の人気を生み出すのだ。
 誰だってそれは分かっているけれど、実際に実践するのはとてもきついことだ。僕たちの普段の生活に当てはめて欲しい。誰だって小さい仕事ならちょっとは手を抜いていいかなと思ってしまうし、大きな仕事さえ成し遂げていれば、些細なことは目をつぶってしまう。そんな中で、コツコツと努力を重ねていくことは容易ではない。
 しかし、思えばプロレス界における革命はそうやって作り上げられてきた。刺激的な言葉、印象的な事件、そればかりがクローズアップされるが、長州革命も、天龍革命も、超世代軍も「どんなところでも“100パーセント”を出す」という不文律があった。
 全てのプロレスラーも努力を重ねている中で、それを超えるようなファイトを続けていくことはとても苦しいことだ。だが、そういう戦いを続けているからこそ、KENTAの試合には感情があふれ出す瞬間があるし、太く短く生きようとするような切なさや悲壮感まで見えてくる。
 KENTAがどんな気持ちでリングに上がっているのか。いつかGスピリッツでじっくりとインタビューしてみたい。同時に今の丸藤をどう見ているのか、そして丸藤が今のKENTAをどう見ているのも聞いてみたい。勝手な予想だが、以前よりも何倍も丸藤はKENTAを高く評価し、ジェラシーを燃やしているような気がする。テーマはなくても、現実的な因縁はなくても、目に見える対立がなくなっても、KENTAと丸藤のライバルストーリーはいつ果てることなく続いているのだ。




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