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第20回 小橋建太の進む道

 小橋建太の復帰第2戦、第3戦が先週末からの3連休に行われた。と書いてはみたものの、Gスピリッツでは基本的に地方出張での取材は行っておらず、当然この2試合も取材対象には入っていない。いくらプロレス記者とはいえ、僕が置かれている状況はこのコラムを読んでいる皆さんとなんら変わらず、東スポや朝刊系スポーツ紙、プロレス格闘技DXの速報、週刊プロレスの誌面、そしてNOAH中継から大会の様子を知ることしかできていない。なので、あくまでも現場にいる記者が書いているわけではなく、情報のみ仕入れた記者が書いているということを前提にこのコラムを読んでもらいたい。また、小橋の体調は、当たり前の話だが、まだまだ予断を許さない状況であることは確かだし、そういう部分での戦いはこれからも続いていくが、それを問題にするのは小橋も本意ではないと思うので、ひとまず横に置いて話を進めることもご了承してもらいたい。
 それにしても、高知県民体育館も、博多スターレーンも本当に沢山のお客さんが入っていた。かつて何度かどちらの会場も取材で訪れたことがあるが、あそこまでお客さんがパンパンになっているのは見たことがない。それだけ小橋建太というレスラーの復活劇が一般層やプロレスに一度は興味が無くなった元ファンの心に届いた証拠なのだろう。
 もちろん、そういう熱はレスラー1人1人にも跳ね返ってきている。専門誌やスポーツ紙のコラムなどでも、小橋が復活を遂げファンの熱狂を生み出したことで、同じように熱い気持ちを持って試合に臨んだレスラーたちのことが書かれている。それは小橋という希有なレスラーの熱がそれだけ圧倒的に強いことの現れでもあるし、他のレスラーが小橋の思いを感じ取った証拠でもあり、とても素晴らしいことだと思う。
 だが、シビアな話をすれば、本当なら復活した後ではなく、欠場中にこそ小橋の話題を吹き飛ばすような活躍をみせるべきだったのはないか、そんな風に思ってしまうのはあながち間違いではないだろう。
 小橋自身にとっても、これからが本当の勝負になる。1シリーズ、2シリーズ、半年、1年と進んでいくうちに、小橋がいないという寂しさが薄らぎ、逆に小橋がいることが当たり前になってきてしまう。それは否定しようのない事実だ。本当は小橋が戻ってきたことが奇跡で、リングにいるだけで凄いことなのだが、ファンは小橋がそこにいることに慣れ、もう一歩先を望んでしまうだろう。体調面でもまだまだ予断を許せない状況ではあるだろうが、果たしてそういう立場に置かれた時、小橋自身はもう一歩踏み出すことができるのか?タイトル戦線に再び上がることができるのか?そこが大きな問題になってくるだろう。
 もちろん、小橋自身もそれは理解できているだろうし、復帰したということはそのレベルまで自分を持っていこうと心の中では既に決めているはずだ。そこには復帰に向けての努力とは形こそ違えど、それと同等の決意が必要になってくる。マスコミとしても「良かった」「凄かった」というトーンの記事だけでは済まなくなってくる。今後はそういう壁に立ち向かおうとする小橋の戦いを、しっかりと見つめていきたいと思う。
 そして、小橋が復帰したことで輝きを取り戻した選手たちも、これからが本当の勝負になる。そういう熱い気持ちをどこまで持続できるのか?「小橋さんが復帰して良かった」という気持ちに区切りを付け、いつ「越えなければいけない存在」として小橋を標的にしていくのか。そこが重要になってくる。
 世代闘争、ライバル闘争が再び始まった時こそ、やっと小橋も本当の意味でスタート地点に立つことになるのだ。そういうシチュエーションになった時、小橋の正面に立つとしても、横に立つとしても、それだけの実力と結果を残していなければならない。例えば、一部誌面で小橋がタッグ王座奪還を視野に入れたような報道があったが、現時点では、小橋自身も、そしてパートナーの本田多聞にもそれに相応しい実績は無いんじゃないかと思う(もちろん元王者、しかも試合で敗北していないというのは重要な要素になってくるが)。
 小橋不在のNOAHマットを引っ張ってきた丸藤やKENTA、森嶋たちは、まだ対戦が実現していないこともあるが、小橋と距離を取っているようにも思う。それはいつか越えなくてはいけない存在だということを皮膚感覚で理解しているからだろう。今後は「小橋が復帰して良かった。お客さんが入って良かった」という雰囲気から脱却し、そこに反発したり、小橋に集まった観客の目を奪い取ろうとする選手たちの気持ちを見たい。そして、それこそが小橋が求めている戦いに繋がっていくのだと思う。




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