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第21回 非常事態宣言

 非常事態が発生している。と言っても、Gスピリッツが休刊になるという噂が一部で立っていることではなく(そんなことないので、ご心配なく!)、僕とプロレスとの関係だ。
 なんと、今年に入って、プロレスの興行を1回(1・4東京ドーム)しか取材してないのだ。記者会見も2回行っただけだし、コメントを取ったレスラーはキンターマンとクロダーマンのみ。しかも、それはプロレスの取材ではなく、パチンコ雑誌の取材のこと(毎月30日に発売されている『パチンコ必勝本DREAMS』でハッスルとのコラボ企画を担当しておりますので、興味のある方は読んでみてください)。1月も後半となるのに、ここまでプロレス会場に行ってないのは、プロレスファンとなり会場で観戦するようになって初めてのことだ。記者としてさすがにまずいのではないだろうか?
「2月にGスピリッツが発売されないからと言ってサボってるんじゃないの?」と思われるかもしれないが、実際はキーボードの打ち過ぎで肩を痛め、風邪も併発して寝込んでいた2日間以外、ちゃんとした休みは一度も取っていないほどの忙しさなのだ。プロレス以外の仕事を少し始めたこともあり、全く違う分野となる書籍の編集作業や「なんでお前がそんなことをやってるの?」と驚かれるであろう人間のインタビューなどで日々時間に追われている。
 もともと僕がプロレス記者になった時に支えとなったのは「プロレスのことはちゃんと分かっている」「他の誰にも負けないぐらい試合を見てきた」という自信(根拠はないが)だったのだけれど、今の置かれている立場はその真逆で、暗中模索の中、ネットや資料を必死に読んでなんとか凌いでいるのが現状だ。
「お前はプロレス記者じゃないのか?」とお叱りを受けるかも知れないが、今の経験が今後、Gスピリッツやこの携帯サイトを作っていく上でプラスになると自分自身では思っている。そして、ほんのちょっとの間だが、プロレスと離れることで見えてくるものが必ずあるとも思っている。
 とはいえ、冷静に1年前、2年前の年末年始を思い出すと、異常なほどプロレス会場に行っていた気がする。そんな生活に戻れと言われても、精神的にも肉体的にも同じようなテンションにするためには数ヶ月の時間がかかるだろう。ファンからすれば「そんなに試合を見られて羨ましい」となるだろうが、正直、精神的にも肉体的にも限界ギリギリで、疲弊しきっている記者がほとんどだ。
 とあるネット系プロレス記者は昨年1年間で170興行近く取材したそうだ。会見はその倍以上の数を担当していることになるだろうから、凄まじい取材量になる。僕みたいに安易な自己主張しているわけではないし、あまり目立つこともないが、そういう人たちが今のプロレス界を本当の意味で支えているのだろう。
 全ての試合を速報し、コメントまで取るという行為は、記者という職業に対して持たれるであろう自己実現とか自己表現なんて言葉からほど遠い仕事だ。どちらかというと、目で情報を仕入れて、それをそのままキーボードに打ち込む機械と言った方がピンと来る。だが、それこそがファンに求められていることなんじゃないかと僕は思うのだ。
 かつてPRIDEの興行を取材した時、コメントブースに座り込んで、いつ終わるのか全く分からない選手のコメントを延々と文字に起こしている僕の姿を見た顔見知りの先輩記者に「こういうのは取材って言わないんだよな」と言われたことがある。例えば記者席にあるテレビ画面ではなく、客席でちゃんと自分の目で見た方がいいと言う人は多いし、そういう自分の目で見て、自分の耳で聞いたことを記事にすることこそが記者であるという意見を持っている人間も少なくないだろう。
 だが、そういう取材をする記者は「その人ではないと聞き出せない事実を引き出し、その人にしか書けない記事を書いて、ちゃんとファンに届かなければならない」という責任を果たさなければいけない。現実はこれが全く出来ておらず、自己満足で終わっている場合も少なくない。
 ファンが一番知りたいのは、「その日、会場で何が起き、選手が何を語ったか」という事実に尽きる。自分の意見なんて二の次で、詳細な事実を伝える記者が、実は一番偉いと思うし、そういう報道があるからこそ、それを前提として他の記事や紙面が生きてくるはず。裏事情や選手の真意を解説できる記者には文句を言うつもりはないし、それはとても素晴らしいと思うが、そんなちゃんとした取材もできないのに、現状を理解してない人が未だにいるのは、ある意味、驚きでもある。
 逆に言うなら、もしプロレス記者やスポーツライターを目指している人がいれば、ネット系の現場で仕事を始めることをオススメしたい。ハッキリ言ってかなり過酷な仕事だし、一流になるには遠回りになる部分も否定できないが、最前線の空気感や真実を感じるには一番の立ち位置だ。まあ、それで嫌気がさす可能性も低くはないけれど。
 正直、そんな生活に戻れと言われたら今の僕は尻込みすると思うけれど、それと同時に、そういう現場に戻りたいという願望が今後湧いてきそうな気もする。なぜならそこが僕の原点であるからだ。




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