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第25回 プロレスラーと感情(下)

 つい先週までは『Gスピリッツ』を発売している辰巳出版グループの雑誌『スコラ』のリニューアルに伴う取材・編集作業のため大忙しだったが、一段落付けたので、4月発売のGスピリッツ第6号に向け、今週からは少しずつ会見や大会に顔を出すようにしている。「しばらく見なかったけど、どうしてたんですか?」なんて言われることも多い。
 まだ次号の企画はしっかりと決まっておらず、下準備ぐらいしか作業はないので、今は現場に行くといってもこのモバイル用の取材が中心。他の作業を合間を縫って時間があった時に、個人的に惹かれる取材をしている。
 当たり前だが、プロレス記者は現場に行ってナンボ。しかし、他の仕事を抱えている状態だと、どうしても「これは見ておかなければ」という大会だけをピックアップして行くことになる。そんな中で「うーん…どうしようか…」と悩んでしまうのが、今のゼロワンMAXの個人的な評価だ。その感覚の一番大きなキッカケは大谷晋二郎にある。
 以前から何度も僕がかつてNOAHの公式携帯サイトだった『格闘魂』出身だということは書いてきた。その『格闘魂』はNOAHだけでなく、旧ZERO−ONEの公式携帯サイトでもあったのだ。
 前任者が辞めてからZERO−ONEが諸事情によりオフィシャルではなくなるまでの数ヵ月間、僕はZERO−ONEの担当も務めていた。中村祥之さんやレスラー・関係者のインタビューもしていたし、なにより『大谷晋二郎日記』という連載にも携わっていた。
 そのコーナーは週2回更新。月に1回のペースで取材をしないと原稿にする内容が足りなくなってしまう。合計で4回ぐらい話を聞いただろうか。記者になって1年経っていなかった僕が最初に連続してインタビューした相手が大谷だったのだ。前任者から引き継ぐ形で大谷がレスラーになってからの日々を振り返っていたのだが、たしか大谷が海外修行に行く直前までの話で終わってしまったような気がする。ある意味、僕が最初に悔いを感じた取材でもある。もちろん、かと言って大谷と特別仲が良いというわけもなく、今となっては顔見知り程度の関係になってしまっている。
 当時のZERO−ONEは橋本真也との関係で揺れ動いていた。それがゼロワンMAXの立ち上げにつながっていくわけだが、そんな危機的状態の中でも、いや、中だからこそ大谷は刺激的な戦いを繰り広げていた。先輩レスラーや他団体への反発なども口にし、まだまだ尖っていた。「プロレスの教科書」という言葉を自然に使うようになったのもこの頃だったと思う。
 僕は同時期に取材を開始していたNOAHの小橋建太と同じ熱を大谷の中に見つけていた。両者に話を聞くと、偶然にも共に高い評価を示し、エールを贈っていたのも印象的だった。大谷がはき出す言葉には感情が詰まっていて、それはファンどころか、マスコミにも伝染し、大きな渦を作りつつあったように思う。僕は大谷がファンがいない場所でも必死に言葉を紡ぎ、それを聞いてくれる記者たちに深々と頭を下げる姿に感銘を受け、何度もコラムの題材にしていた。
 しかしその後、ゼロワンMAXは“現状打破”することが出来ないまま、時間ばかりが過ぎていってしまう。中村代表の口からは選手に対する厳しい意見が幾度となく飛び出し、それが何度も誌面に取り上げられていたが、団体として現実的には今も現状維持が続いている。仕掛けや対戦カードもいまいちピンと来ないものになってしまい、集客的にも伸び悩んでいるのが、ゼロワンMAXに対するシビアな印象だ。
 記者として感じるのは、ゼロワンMAXの選手たちが一枚岩でありすぎるということ。みな人の良さが出てしまい、「俺が俺が」となれないため、余計に気持ちが見えにくくなってしまっていると思う。プロレスは人の良さや気遣いを見せる競技ではない。どちらかというと、性格の悪さ、意地汚さ、生々しい感情を見せるものだと僕は思う。そういう気持ちに対しての物足りなさを感じずにはいられないのだ。
 大谷晋二郎も変わった。もちろん団体を背負う立場となった今、自分が思うままに、ワガママにやれるタイプの人間ではないのは分かっている。ただ、例えば新日本時代の大谷晋二郎に感じていた期待感やゼロワンMAX立ち上げ時に感じた気概みたいなものを感じられなくなっているような気がするのだ。
 大谷は『大谷晋二郎』という枠にがんじがらめになってしまっているのかもしれない。リング上でのスタイルや試合後のコメントが、感情の爆発から生まれているのではなく、ただの大谷晋二郎というファッションに見えてしまう。あくまでも個人的な感覚だけれど、胸を打つようなシーンを本当の意味では作り出せなくなってしまった気がする。僕は試合を見るたびに「大谷晋二郎はこんなもんじゃない」と思ってしまう。
「破壊なくして想像なし」。橋本真也の有名な言葉だ。今こそ大谷は最近の自分を破壊し、新しい自分を作って欲しい。
 負傷ヵ所を徹底的に治し、肉体も作り直した上で、フリーとして他団体を荒らし回るのが一番輝ける方法だと僕は思っていた。しかし、大谷はゼロワンMAXの代表になるという、逆に一番険しいであろう道を選んだ。僕にそれを否定する権利もないし、実際に本人が選んだ道なら応援したいと思う。ただ、うまくやろうとか、調整役やバランスを取る役目なんかにならないで、もっととんがって、芯から熱い本来の大谷晋二郎を取り戻して欲しい。大谷のプロレスは心のプロレス。それが崩れてしまったら、どんなにいい試合をしようとなんの意味もないのだ。ファンもレスラーの魂を見に来るのだから。大谷晋二郎は絶対にこんなもんじゃない。




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