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第26回 結論が出る日

 今週末、三沢光晴vs森嶋猛のGHCヘビー級選手権試合が開催される。以前ならそれこそ全ての前哨戦を取材し、自分の中で少しずつイメージを作りながら、タイトルマッチに臨むことが出来たが、今はそんなことが許されない身なので、「いよいよ」というよりも、「いきなり」というイメージが強いけれど、実際に森嶋の立場からすれば、「いよいよ」か、または「とうとう」という4文字が正直な感想だろう。
 森嶋については一度Gスピリッツの誌面でも書いたが、僕にとっては同い年ということもあり、共感を持って追ってきた選手だ。森嶋がここ数年で直面していた苦悩や足踏みは、僕自身にとってもリアルな感覚だったし、だからこそ踏みとどまって戦うこと――『スタンド・アンド・ファイト』という言葉で森嶋の心情を表した。
 GHCヘビー級王座に初挑戦を果たしたのは、2年3ヵ月も前のことになる。あの頃から既に森嶋に対する期待感を僕自身は感じていたが、それはNOAHをちゃんと見ているファンやマスコミのレベルに留まっていて、プロレス界を巻き込むような爆発力はまだなかった。
 その後、ノンタイトル戦、そしてGHC戦と2度、三沢と武道館で対戦。どちらも森嶋の強さを内外にアピールするには十分すぎる内容だったが、逆に三沢という人間との差を感じさせるものでもあった。よく指摘されるのは精神面の弱さだが、それ以外にも男としての色気とか、レスラーとしての雰囲気、たたずまい、そういう部分全てを総合した一人の人間としても明らかな差が感じられたし、森嶋自身もその壁を思い知らされただろう。
 新たな自分を生み出すべく、海外遠征に積極的に取り組むようになった森嶋は、ROH王座を20度防衛。途中で秋山越えを果たしながらも、丸藤に敗北し、GHCヘビー級王座挑戦権を手にすることが出来ず、またしても足踏みをすることになってしまったが、それでも森嶋は愚直なまでに自分の目の前にある道を進み続けた。そこには森嶋の感情や姿勢がしっかりと見えていたし、だからこそ期待感がプロレス界全体に立ちこめてきたのだろう。
 何度も叩きつぶされながらも、少しずつ少しずつ積み重ね続け、今の自分を作り上げてきた。GHCヘビー級王座に関しては“3度目の正直”になる。ここでベルトを取ることが出来なかったら……。ある意味、森嶋猛というプロレスラーの存在が完膚無きまでに否定されることになるだろう。もちろん評価はさらに上がるだろうし、無意味なことにはならないが、タイトル戦線からも大きく後退をすることになるのは間違いないし、なにより「森嶋はやっぱりここ止まりの選手だったんだ」というレッテルが貼られることになってしまう。またしてもゼロから実績を作る作業はとてつもなく厳しいし、その頃には三沢というレスラーと真正面から対峙できなくなってしまうような気がする。
 逆に言えば、勝ったら勝ったでそれ以上の重圧が森嶋にかかることにもなるのだけれど…。どんな結果が出るにせよ、今回の試合が森嶋のレスラー人生にとってターニングポイントになる試合であるのは間違いない。
 それは、王者・三沢にとっても同じだ。3度目のGHCヘビー級王座戴冠時に僕が感じずにはいられなかったのは、「たぶん三沢がこのベルトを巻くのがこれが最後だろう」ということだ。
 以前の三沢と今の三沢は明らかに違う。昔のような華麗な動きは出来なくなってきているし、かつてはどんな技を食らってもポーカーフェイスで立ち上がっていたのに、今は何度も苦しそうな表情を浮かべるようになった。肉体的にも年齢を感じずにはいられないし、目に見えない部分だったはずなのに、ダメージの積み重ねが顕著に出てきて、怪我の治りも遅くなってきた。
 だが、それでも昨年ベルトを守り続け、プロレス大賞のMVPを受賞できたのは、三沢には驚異的なほどの精神力の強さがあったから他ならない。
 愚痴や弱音を記者会見や勝利者インタビューでも見せるようになってきたが、それだけ今の三沢は必死に戦っているのだと思う。対戦相手とも、観客とも、そして自分自身とも。なりふり構わず懸命に。だから、僕はファンとして熱狂していた頃の三沢よりも、今現在の三沢に心を揺さぶられる。
 三沢は「誰かに自分を乗り越えて欲しい」「だけど自分自身に負けたくない」という相反する感情の間で揺れ動いているようにも見える。そして、その一線を越えるような相手と戦うのを待っているようにも見える。
 今度のタイトルマッチの日が、三沢という時代を築いた一人のレスラーが最後にベルトを巻いた日になる可能性もそんなに低くはないような気がする。個人的には2人とも勝って欲しいが、2人とも負けて欲しくない、そんな複雑な気持ちになっている。
 果たしてどんな結果が待ち受けているのか。少なくともその結果は、なにかしらの結論をNOAHマットに導き出すことになるだろう。置かれた立場は違えど、全身全霊で今の自分の発揮しようとしている2人の戦いをしっかりと見守りたい。

【告知】
■現在発売中の『スコラ』3月&4月合併号に、僕が担当した武藤敬司選手のインタビューが掲載されています。「男らしさとは?」「いい女とは?」をテーマにプロレスと関係ない話をお聞きしましたが、プロレスファンにも読んで欲しい内容に仕上がっていますので、ぜひチェックしてみてください。
■『イープラス・スポーツ』HPのバトルコーナーで、フーテンプロモーションの池田大輔選手のインタビューを担当しました。こちらもぜひ読んでみてください。
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