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第30回 小橋イズム

 あくまでも鷹木信悟&B×Bハルク組が王者で、KENTA&石森太二はベルト奪還を果たすべく他団体に乗り込んできた挑戦者のはずだった。しかし、リング上で展開されたのは文字通りの“横綱相撲”。KENTAが圧倒的な輝きを放ち、他の3人との違いを見せつけた。まるで自分が王者で、鷹木たちの挑戦を受けたかのように。
 印象的なシーンが2つある。
 1つは入場シーン。先に入場したKENTAと石森が一旦リングを降りると、続いてチャンピオンチームの入場となった。最初に入場したハルクがいつも通りバックダンサーと一緒に華麗なダンスを決めると、続いて鷹木もいつも通りその筋肉を誇示していた。
 ハルクのダンスを横目にKENTAは黙々とシャドーボクシングで気持ちを集中させていた。その表情を撮影しようとするカメラマン。
「やっぱりそれはおさえておかないとな」
 Gスピリッツ誌面でこの試合を掲載するわけでもないのに、僕の頭の中でそういうイメージが浮かぶ。試合以外の部分で表情や佇まいに注目が集まるのも、KENTAが特別なレスラーだと認識されている証拠だろう。
 ハルクと鷹木の入場について“いつも通り”と書いたが、そこには「オレはこうなんだ」という激しい自我が感じられず、やや緊張した面持ちに見えた。こういう緊張感のあるシチュエーションでこそ、雰囲気で相手を飲み込むような入場を見せる必要があったし、逆にそれができないならあえてなにもしないで入場するべきだったのではないだろうか。アイドルチックなダンスだろうと、筋肉バカにも見えるポーズだろうと、そういう気持ちの入った空気を発散させることは可能なはずだ。
 そして、僕の中である意味、勝負が決した場面は、試合の序盤でKENTAと鷹木が対峙したシーン。試合開始直後からKENTAを強烈に意識していた鷹木だったが、キックやビンタで押されてしまう。後手に回りながらもパワーで強引に押し返したが、その直後、鷹木は反撃に打って出ず、ゆっくりと後ずさるようにして自軍のコーナーに戻り、ハルクとタッチしてしまった。場内からは少しではあるが不満の声も起こっていた。キックの当たり所が悪くてダメージを負い、すぐにタッチする必要があったのかもしれないが、見た目だけで言えば力強さで勝る鷹木が、KENTAに押し負けたという事実が、その後の試合のムードを決めてしまったような気がする。
 かつてジャイアント馬場が、王者はリング中央にどっしりと構え、挑戦者が周りを回るという位置関係の意味を説いていたが、この瞬間、KENTAがリング中央を押さえ、鷹木たちが周りを回ることになったのだ。いつのまにかKENTAが挑戦者であるという感覚をファンが忘れていくことになる。
 もちろん鷹木とハルクにもチャンスはあった。石森に怒濤のラッシュを仕掛けた場面もあったし、KENTAをあと一歩まで追い込んだようにも感じた。あの会場で試合を生で見ていた時、僕も「このまま負けてしまうんじゃないか?」と感じたのは確かだ。しかし、今になって振り返ってみると、KENTAに危ない場面があったような気がしないというのは、それだけKENTAの芯が試合全体を通じて揺らがなかったからだろう。
 相手の持ち味を引き出した上で勝つ。そして、振り返ってみれば自分が一番輝いている。そんな戦い方を見て、試合後、ふとこんな感覚を以前によく味わっていたのを思い出した。
 それは絶対王者時代の小橋建太の試合だ。
 小橋は必ず相手の持ち味を100%引き出した上で、自分は120%の力を発揮して叩き潰す。だから、相手の魅力を存分に発揮させたように見えて、実は最終的に「俺の方が強い」という決定的な結果を見せつけることになる。
 この日のKENTAもドラゴンゲートという舞台に乗り、苦戦したように見えて、実際は相手を叩き潰し、自分の強さを誇示していた。
 今、KENTAは小橋とあえて距離を取っているように見える。タッグを組んでも絶対に小橋の世界観に迎合しない。NOAHの次のツアーでは小橋とのタッグで健介ファミリーと対戦するが、決して小橋vs健介という絶対的な戦いを前にしても、自分の色を消さない強さと消させない存在感を持っている。
 しかし、距離を取り、交わらないようにして、離れれば離れるほど、逆にKENTAの戦い方はバーニングスピリットを持つようになる。KENTAの姿勢にはやはり小橋イズムが宿っているのだ。

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