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第28回 三沢と川田と当時の僕(21)

 東京ドーム大会での三沢vs川田戦(三冠ヘビー級選手権試合)。僕にとっては待ちに待ったとしかいいようのない試合だった。
 前回の挑戦から11ヵ月。その間、川田は三沢へ向けてきた視線をあえて逸らし、他団体や外敵との対戦に集中してきた。前回の三冠戦後、川田は「三沢光晴に対してひとつのケジメがついた」と発言したが、ドーム決戦前にも「これまでのような気持ちには戻れない」と語っている。だが、勝ちたいという思いが強いからといって実際の試合で勝利を手にすることができるとは限らない。そんな気持ちが足かせになったり、プレッシャーになったりすることだってある。川田自身に「今度こそ」という気持ちが弱まった分、僕の中には「今度こそ」という思いが強まっていた。
 対する三沢も、ある意味、前回の対戦で区切りを付けていたのかもしれない。もともと超世代軍として共に戦っていたこと、世界タッグ王座を2人で巻いたこと、川田が自分から田上とのコンビ結成に動いたこと。プライベートやこれまでの思い出、抗争を含めて、2人の間には様々な葛藤があっただろうが、川田が一歩引いたことによって、三沢の心境にも確実に変化はあっただろう。
 三沢vs川田として行われる三冠戦はこの日で6度目。改めて考えてみれば、平成以降のメジャータイトルでここまで同一カードが行われた例も珍しい。積み重ねてきた思いや体に刻み込まれてきた数々の激闘がもうすぐ爆発しそうになっていた。
 僕はこの日、一番安い3000円のチケットで観戦している。「思い入れがあるとか言っておきながら、金かけてないじゃん」と言われそうだが、実は実費で友人4人を招待していた。日に日にテンションが上がり、一人では抱えきれなくなっていて、半ば強引に学生時代の友人を連れ出したのだ。
 もうすぐ第1試合が始まろうとする東京ドームのスタンドで、僕は「川田が勝ったら、俺も何かに勝てると思うんだよ」と必死に熱弁していた。周りの観客にも笑われるほど痛い発言だったが、僕の中ではこの試合でなにかが終わってしまうんじゃないかという危惧があったんじゃないかと思う。そして、三沢vs川田戦のゴングが打ち鳴らされた。試合後、僕の心は達成感ではなく喪失感で、喜びではなくせつなさで満たされることになる。




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