[水]ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

[2.14]ルチャ85周年本を捲る

 昨年12月9日、アレナ・メヒコで『ルチャ・リブレ85年』の出版発表が行われた。2018年、今年でEMLLが設立して85年目に当たる。それを記念してCMLLから豪華本が出版されたのだ。手元に本が届いたのでチェックしてみよう。まず驚かされたのは大きさだ。縦30.5センチ、横26センチ、厚さ4センチ、重さ2.1キロというビッグサイズ。その分、85年の歴史がたっぷり詰まっていると言える。高質の紙に、貴重な写真と記事でまとめられていた。

 まず私的に評価したいのは、旗揚げ以前、19世紀(1843年)のメキシコにおけるプロレスから話を興している点だ。そして20世紀初頭のプロレス、1921年の柔道家・前田光世(コンデ・コマ)、サタケ・ノブタケ(佐竹信四郎)によるプロレス興行にも触れている。そして1929年に創業者サルバドール・ルテロ・ゴンサレス氏がエル・パソで観たプロレスリングから1933年のEMLL旗揚げに結びつく。


※アレナ・メヒコのエントランスの壁画が表紙。

 本書は8つのパートに分かれている。それぞれにどんな項目があるのかを見てみよう。第1章は旧アレナ・メヒコの消防演習や1937年2月2日に焼失したアレナ・ナショナルの記事、コンサレス代表の宝くじ当選などの写真は興味深いものだった。

 「初期メキシコ選手の姿」、「旧NWAとの提携」、「最初のマスクマン」、「女子プロ登場」などが第1章の項目。第2章は「威厳あるアレナ・コリセオの成功」、「外国人vsメキシコ人」、「エル・サントvsブラック・シャドー」、「テレビの誕生」などの項目が目を引く。第3章は「黄金期 新種のトーナメント」、「旧アレナ・メヒコ閉鎖」、「荘厳なる新アレナ・メヒコ」、「EMLLの発展」、「記憶に残るライバル ゴリー・ゲレロvsカベルナリオ・ガリンド」など1950年代の全盛期を時系列に追っている(私的にはここまででお腹いっぱい)。

 第4章は1960〜1970年代のEMLLの飛躍に触れ、白い津波と言われたアンヘル・ブランコ、ドクトル・ワグナー、エル・エンフェルメロ、グラン・マルクス。そしてエル・ソリタリオ、ミル・マスカラス、アルフォンソ・ダンテスらがそれぞれの項目の主役となる。やはり個性の高いタレントが群雄割拠した戦国時代であったことがうかがえる(ただし、編集者としての視点から、この当たりの写真はもっと厳選すべきだったかと思う)。さらに「ピスタ・レボルシオンのオープン」、「マスカラ戦とカベジェラ戦」、個人ではペロ・アグアヨ、トニー・サラサール、アドラブレ・ルビの他、フィッシュマンvsエル・ファラオンなどが取り上げられている。

 第5章は1980年代。「“子供たちのアイドル”アトランティス」、「他団体の不意打ち」、「メキシコシティを襲った大地震1985」「タッグの時代」、「女子プロがコリセオに帰って来た」、「ドン・サルバドール・ルテロ・ゴンサレス死去」といった具合で激動の時代を追う。第6章は1990年代。「未来の構築」はEMLLからCMLLへの変革。「20世紀最後の転化」、「初の金網マッチ」、「ミゼットのスターたち」、「アニバル 一人の伝説の終焉」、「ブルー・パンテルvsラブ・マシーン 反則技マルティネーテ(ツームストン・パイルドライバー)論争と爪痕」、「60周年のアトランティスvsマノ・ネグラ」、「90年代の外国侵略」、「CMLL天空の新星たち」、「アディオス、ブルー・デモン」…。AAAの創設によって強いられた大苦戦には触れていないのはCMLLの意地か。

 第7章は新世紀を迎えたCMLL。グアポス大学やピエロー・ジュニア率いるカリビアン・コマンドスの台頭など軍団抗争、女子プロの復活、ミスティコの出現などに触れている。そして最終章は2010年から現在まで。80周年から続いた怒涛のアニベルサリオでのマスカラ戦。そして最後は著名なルチャ・ファンの横顔。これで327ページ…これは超読みごたえがある。


※年代ごとに登場するエストレージャたち。なかなかの出来栄え。

 「80周年本を作るから」と、この本を発行することをパコ・アロンソ代表から聞いたのは5年前だったか。「それならば私にも何処かのパートを書かせて下さい」と頼み、さっそく原稿を書いて送った。タイトルは『アレナ・メヒコと日本人』。EMLLに登場した有名無名を含むあらゆる日本人選手について、またEMLLから日本の団体に派遣されたメキシコ選手たちを網羅した長編だったが、採用されることはなかった。残念というよりも、あの時点でどういう中身かもまだとまっていなかったわけだから仕方ない。こうして時代を追うような書き物の中に入っては逆に違和感がある。だから、使われなくて良かったと思っている。

 ただ、せめてミステル駒、パク・チュー、サトル・サヤマといった世界チャンピオンには少しでいいから触れてほしかったというのが正直なところ。それは他の外国人世界王者やアンドレ、ダニー・ホッジ、ハーリー・レイスといった世界の一流タレントに関しても言える。この国は外国人のポジションが低い…。

 それはともかくとして、これは過去にないルチャの超豪華本であることに違いはない。クリスチャン・シメット弁護士のコレクションによる古写真も50数点使用されていて、それだけでも目の保養になる。そして資料的な価値も高い。恐らく次にこれに勝るものがもし出版されるとしたら15年後の100周年の時だろうか。この一冊はプロレスファンならば是非ともキープしておきたい名著だと思う(Solluchaで販売している)。


※今年の「オメナヘ・ア・ドス・レジェンダス」のゲストはマスカラス。

 そうそう、EMLL創始者サルバドール・ルテロ・ゴンサレス氏の名が出たところで、もう一つ。3月16日の金曜日のアレナ・メヒコはビッグショー『オメナヘ・ア・ドス・レジェンダス』のカードが決定した。当日のメインはアンヘル・デ・オロとエル・クアトレロのマスカラ・コントラ・マスカラに決定。ニエブラ・デ・ロハの実弟とシエン・カラスの息子の対決だ。同大会ではアトランティスvsビジャノ3号(2000年)、ウルティモ・ゲレーロvsビジャノ5号(2009年)、ラ・ソンブラvsフェリーノ(2010年)、ディアマンテ・アスールvsピエロー(2017年)のマスカラ・コントラ・マスカラがあった。今年はどんなドラマがあるのか。

『オメナヘ・ア・ドス・レジェンダス』とは1897年3月21日、ハリスコ州オコトランで生まれたサルバドール・ルテロ・ゴンサレス氏の生誕を祝う大会(1996年より始まる)で、1999年から氏と故エル・サントの2人のレジェンドを祝うようになる。サントが数年続いて、2005年はペロ・アグアヨ、2006年はサントに戻る。2007年からウラカン・ラミレス、ブラック・シャドー、カベルナリオ・ガリンド、レイ・メンドーサ、アンヘル・ブランコ、ボビー・ボナレスと故人が続き、2013年のラヨ・デ・ハリスコからシエン・カラス、エル・ファラオンが招待され、一昨年は故人となったリスマルク、そして昨年のビジャノ3号がオメナヘ=スペシャルゲストとなる。

 そして今年のオメナヘ(敬意を持って歓待される人)はミル・マスカラスに決定した。確かにマスカラスこそ、レジェンド中のレジェンド。53年前にデビューしたアレナ・メヒコ…このルチャの大聖堂には欠かせない伝説の人である。『ルチャ・リブレ85年』にも“ミステル・ペルソナリダ”(人格者)ミル・マスカラスの偉大な功績はしっかり書かれている。今年はルチャ・リブレの歴史を改めて感じさせてくれる一年になりそうだ。






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