[水]ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

[6.20]焼肉屋談義

 アルカンヘル・デ・ラ・ムエルテの急死という悲報、その前にはフングラ・ネグラ、フラマ・アスール…メキシコから次々と訃報が届く。フングラは79年2月のモンテレイで、フラマは82年8月のパラシオで、私がマスカラ戦の敗戦を看取っている。アルカンヘルはいい奴だった。想い出もいっぱいある。

 2001年1月の全日本の東京ドーム出場をプッシュしたことを彼はずっと感謝してくれていた。CMLLジャパンの来日メンバーの中からの人選で、“イホ・デル・サントの相手はブルー・パンテルがいい、では、マスカラスに対峙するルードは誰にするか?”…となった時、私はアルカンヘルならプランチャを受けられる…と彼を推薦した。「後楽園の遊園地でずっと試合していた俺が東京ドームに出られたのは一生の想い出だよ」って涙ぐんでいた。

 近年、CMLLのコーチになった時も「良かったね」「グラシアス」と喜び合ったのに…。嗚呼、何たることか…。私の関わったルチャドールたちがどんどんいなくなっていく。ただ、手を合わし続けるしかない。弔いの号砲はロシアのワールドカップでメキシコが連覇を狙う王者のドイツを破ったことか。あの勝利はアルフレッド(アルカンヘル)と2人のトーニョ(フングラとフラマ)が天国から後押ししてくれたんだと思う。合掌!


※クリスチャン・シメット一家は初めての関西へ。

 さて、先々週にアミーゴのクリスチャン・シメット弁護士(メキシコ最強コレクター)が昨年の10月以来、8ヵ月ぶりに家族を連れて日本にやってきた。某イタリアンレストランで歓迎の宴を催す。その席でまた「歴代ルチャドール・ベスト5は」の質問が彼に飛ぶ。クリスチャンが今回名前を挙げたのは「エル・サント、ブラック・シャドー、レイ・メンドーサ、レネ・グアバルド、エル・ソリタリオ」だった。昨年聞いた時は「タルサン・ロペス、ブラック・シャドー、レイ・メンドーサ、エル・ソリタリオ、ビジャノ3号」だったのに…(意地悪く憶えていたよ)。「85年の歴史で何万もいる選手の中からたった5人に絞るのは難しいよ」とクリスチャンは苦笑い。確かにワンマンエースで構成されてきた日本マット界とは選び方が違ってくる。レスラーの絶対数も違う。

 クリスチャンに限らず、メキシコ人の関係者たちがよく口にするのは「アイツはすごくいいテクニシャンだけど“フリーア”だからなあ」という言い回し。“フリーア”とは「冷たい」という意味。「リスマルク? とってもいい選手だけどフリーアだよ。アトランティスもそうだね」。これが何かというと、アピールに欠き、冷めてお客を熱くさせられる選手ではないという意味。「アニバルもそう。選手としての技術は最上級だけど、客をヒートさせられない」。

 その反対語が“カリエンテ”(熱い)。「レイ・メンドーサ、エル・ソリタリオ、レネ・グアハルド、ビジャノ3号、ウルティモ・ゲレーロはカリエンテな選手。彼らはお客を熱く興奮させる要素を備えている」。ルチャドールの良し悪しの基準は、まずお客ありきで、その観客をヒートさせられて、初めてスペル・エストレージャということのようだ。カリエンテなルチャドールとは闘争心、ファイティングスピリットの塊のような選手ということになる。それだと鶴田はフリーアで、猪木はカリエンテとなり、ゴッチはフリーアで、ロビンソンはカリエンテとなる。

 日本では「シュートが強い」「あっちが強い」がトップスターの大事なファクターとして加味されることがある。それをクリスチャンに訊ねてみる。「メキシコでそれは評価の基準ではないです。昔、タルサン・ロペスがシュートを仕掛けて相手に怪我をさせました。それはプロして客の前で見せるものではないんです。だから、そこから彼は評価を落としたわけ。シュートが強い、弱いは選手間の裏の自慢話。ヒムナシオ(ジム)でのスパーリングでいくら強くても、いくら喧嘩に強くても金にはならない。そんなことよりも客を熱くさせて、たくさん動員させないとトップスターとは言えないんですよ。お客をいっぱいアレナに入れられる選手こそ、真のエストレージャなんです。彼らはプロフェシオナルなんだから…」。

 新日本初参戦のために大阪城ホールに登場するレイ・ミステリオが飛来。我々も関西へ移動した。そして焼肉屋でウエルカム・パーティーとなる。そこでミステリオ=M、クリスチャン=C、私=Tの3人で、前夜と同じような話題になった。神戸牛をつつきながら…。


※焼肉屋さんでの晩餐。一息ついて月見と洒落込む。

「エル・サント、レイ・メンドーサ、エル・ソリタリオは不動のスリートップかなあ」(M)
「日本の力道山、馬場、猪木みたいに…。それならばサント、メンドーサ、ソリが揃って活躍した時代はすごかったということになるね」(T)
「残る2枠は人によって違う選手が入ることになるのかな。私はブルー・デモンとブラック・シャドーを推すよ」(C)
「デモンは納得だけど、シャドーは意外性があるね」(T)
「彼のタイトル歴はナショナル・ライト級王座しか獲ってないけど、ベルト以上の功績がある。グラウンドレスリングも強い上に、空中技を開発した実績は見逃せないと思う」(C)

「なるほどね。確かに長い歴史の中でたった5人に絞るのは難しいね。メキシコくらいレスラー人口がいれば、ベスト10や20に入っただけでもすごいことだと思う。僕ならばペロ・アグアヨを入れたいね」(M)
「アグアヨも入れたいけど、彼はスタンドで暴れ回るだけで、レスリングをしなかった。だから評価を落としたんだ」(C)
「私は、アグアヨは有りだと思うよ。EMLL(CMLL)、UWA、AAAという3つのメジャー団体で、すべてエースになったのは彼だけ。それにAAAで1年、CMLLで1年、計2年間も引退全国ツアーをやった選手なんて過去にいない。それに間違いなく“カリエンテ”な選手だし」(T)
「あのサントですら引退試合は首都圏の3試合だけだったよね」(C)

「それから僕は、ミル・マスカラスは入るべきだと思っているよ。世界に飛び出して大成功した最初のメキシカンだから。あれはもう12年前になるのかな…マスカラスと僕の対談をセットしてくれたトマスには感謝しているよ。マスカラスの大ファンだったから最高に嬉しかったよ(笑)」(M)
「あれは最高のタイミングでできた対談だったよね。ゴングでの最後にやれた最高の仕事だと思っているよ。2人がそれぞれに認め合っているのが良かったね」(T)
「私もマスカラスは大好きだけど、スリートップに比べるとメキシコでの実績が落ちるのでは…」(C)
「それはあくまでメキシコ国内での目線で、もっとワールドワイドの視線で見れば、ミル・マスカラスとレイ・ミステリオは外せないだろうね。この2人は、もう二度と出て来ない選手だと思う」(T)
「ありがとう。でも結局、5人で収めるには無理があるね(笑)」(M)
「今度は10人で考え直そうよ」(C)
「話は違うけど、サンディエゴ市条例で6月19日が“レイ・ミステリオの日”になるんだ。当日に記念セレモニーがある。祭日扱いじゃないけどね」(M)
「すごい!」(C)(T)


※2006年秋にメキシコシティで実現したマスカラスvsミステリオ対談。

 こんな感じの会話を焼肉屋で夜な夜なしていたのです。

 マスカラスの名が出たところで、27日発売の『Gスピリッツ』第48号…前作から通算の連載21回も続いてきた「続・ミル・マスカラスが悪魔仮面と呼ばれた時代」は本号で最終回です。テリトリー時代最強メキシカンはマスカラスで、WWE世界制覇時代はミステリオということか…。






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