[水]ドクトル・ルチャの19○○ぼやき旅

[10.11]鉄人の血、来る

 クリスチャン・シメットの接待はまだ続いている(だから今、この原稿はディズニーシーのイタリアンレストランで書いている次第)。彼は今回、奥さんのアルマ・ディアスと娘のマリア・フェルナンダを連れて日本に来た。クリスチャンはAAA勢との来日が重なっただけで、もともとはプロレスグッズ大国であり、優秀なコレクターがたくさんいる日本で買い付けやファン交流がしたかったからの来日である(トークイベントや展示会はあとから決まった企画)。その念願がやって叶っての日本初上陸だったというわけ。

 奥さんのアルマはあのビジャノ1号の一人娘である(うん、どこか面影があるなあ)。人にそう紹介すると、「えっ、本当ですか」とみんな驚く。それもそうであろう。ビジャノスのネームバリューは日本では絶大で、その長兄。つまりアルマの祖父、フェルナンダの祖々父はあの“メキシコの鉄人”レイ・メンドーサということになる。

 メンドーサもビジャノ1号(ホセ・デ・ヘスス・ディアス・メンドーサ)も一度だけ日本に来ている。メンドーサは1971年の『第12回ワールド・リーグ戦』。長男のビジャノ1号は20年後の91年3月、ユニバーサルの『グラン・エストレージャ91』。メンドーサはNWA世界ライトヘビー級王座を5回、UNヘビー級王座やNWA世界ミドル級王座を奪うという輝かしい戦歴の持ち主。最晩年には米国フルコントクトのエイプマンとメキシコ初の異種格闘技戦をやって勝利した(2003年4月死去)。ビジャノ1号は実弟2号とともにメキシコ五輪のレスリング代表候補だった猛者で、弟(4号、5号)とともにブラソスのマスクを剥ぐ大仕事をした。また晩年には父メンドーサが2度締めたUWA世界ライトヘビー級タイトルを手にすることもできた。シュートの強さは天下一品で、誰からも一目置かれた選手だった(2001年1月死去)。


※右から夫クリスチャン、妻アルマ、愛娘マリア・フェルナンダ。

 最強コレクターであるクリスチャンはルチャ・リブレの歴史研究家でもある。そこが他のコレクターとの大きな違いだ。マスク一つにしても、メーカーだ、素材だ、縫い方だ、だけでなく、選手の歴史的背景すべて把握した上でコレクトする。それはマスクマンだけに限らない。そこが私と息が合うところである。今回のトークショーで60年代の映像もいくつか披露したが、ルチャの歴史がマスクマンによって作られたわけではないことが理解できたであろう。「日本のファンにはマスクだけでなく、素顔の選手の含めたすべてのメキシコを愛してほしい」というのがクリスチャンと私の願いである。

 クリスチャンが選んだルチャドールの歴代ベスト5(順不同)。

ブラック・ジャドー
タルサン・ロペス
エル・ソリタリオ
レイ・メンドーサ
ビジャノ3号

 シャドーはメキシコに空中殺法を確立させた革命家。タルサン・ロペスは1930年代から50年代までの創成期の大スター。ソリタリオはエレガントでオールマイティな天才児。メンドーサは誰も愛されたメキシコの力道山に該当する不屈のファイター。メキシコの力道山的な存在というなら、タルサン→メンドーサのラインといえるかもしれない。クリスチャンにとってメンドーサは義祖父になるわけだが「ファミリーになったからと言って贔屓にしたわけでなく、本当に万人に愛された名選手なんですよ」とフォローする。私もベスト3を選べと言うならタルサン、ソリタリオ、メンドーサは一緒である(あと2人はサントとレネ・グアハルド)。


※アルマの父ビジャノ1号(右)と叔父のビジャノ3号。

 ビジャノ3号は多少、ファミリーだからということで贔屓目もあるみたいだけど、選出した理由は「ビジャノは大変なカリスマ。客を引き付けるパワーは半端でなく凄い。それは父親譲り、いや、それ以上かも知れないね」と語る。確かに大流血しながら客にアピールする姿は全盛期の大仁田厚とダブる。「ビジャノコール」と「オオニタコール」には似たところがあるかもしれない。メンドーサからビシャノに受け継がれた濃いインディオの血こそが、メキシコ人の心を最も熱くさせるのである。日本と日本人をこよなく愛したメンドーサ。彼の可愛がった初孫、孫娘アルマが初めての日本を満喫している。そのことを一番喜んでいるのはやっぱりメンドーサ自身ではないかと思う。

 ついでに言うならば、アルマの母マルマ・デリア・バレロの父親はホセ・ルイス・バレロ。バレロは60年代に『ボクス・イ・ルチャ』と、『ルチャ・リブレ』の2大週刊誌の編集長を歴任し、70年代後半からは『オバシオネス』紙の編集員になったルチャマスコミの第一人者だ。ちなみに私のルチャの師匠エクトール・バレロ・メレ(ルチャ・リブレ誌とエル・アルコン編集長)はホセ・ルイスの実弟である。アルマはルチャドール最強戦士メンドーサとルチャ最強マスコミのホセ・ルイス・バレロという2人の祖父から「ルチャ最強の血」を受け継いだわけだ。だから、夫クリスチャンの趣味には絶大なる理解を示している。ある意味、ルチャの世界での最強夫婦と言っていい。


※レジェンドたちに混じって真剣にジャッジ。最優秀選手たちを選ぶ。写真:シクロペ

 そうそう、イベントラッシュ4日目にはAAA大会で例の審査委員を体験。藤波さん、浜やんと一緒に真剣にジャッジをしました。サムライTVでも近々に放送があるので、それでチェックしていただきたい。






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