第73回 鉄板カード

 最近、苦言ばかり書いているこのコラムだが、僕にしては珍しくここ数週間で気になる試合がいくつかある。ひとまずそれを並べてみよう。

■NOAH1・25後楽園ホール、KENTAvs鈴木鼓太郎(GHCジュニアヘビー級選手権試合)
■全日本プロレス2・6後楽園ホール、丸藤正道vsカズ・ハヤシ(世界ジュニアヘビー級選手権試合)
■健介オフィス2・11後楽園ホール、中嶋勝彦vsKENTA

※最初に断っておくと、別に今週の週刊プロレスの企画を1試合変えただけのパクリ、ではありません(苦笑)。あしからず。

 この3試合は久しぶりに“見逃したくない”と思えるカードだ。そして、NOAHや全日本だけでなく、今年のプロレス界にとっても試金石となる試合だとも思う。
 時系列で追ってみよう。まずは1・25、KENTAvs鈴木鼓太郎のGHCタイトルマッチ。この2人のシングルがタイトルマッチで実現するというのは、僕にとってはかなり感慨深い。
 一見すると、単純なベビーフェイスvsヒールの図式となるが、わずかな期間で2人の間にここまで因縁が生まれたのは、その前から目に見えない形で互いに強い思い入れがあったからだろう。「鼓太郎ならここまでやってもいいはず」とKENTAが思えば、鼓太郎も「KENTA(さん)にならここまでやってもいいはず」と思っているだろうし、それこそ「俺なら鼓太郎の良さをもっと出せる」、「俺がKENTA(さん)に仕掛けていけばもっと刺激的な空間になるはず」という意識だってあっただろう。あくまでもそういう感情は土台であって、試合では怒りや妬みのような生々しい感情が出てくるだろうが、それでもこの試合は2人のライバルストーリーの始まりになるはずだ。僕の感覚からすると、上に挙げた3試合の中で、一番“鉄板カード”だと考えている。
 丸藤vsカズは“鉄板カード”のようであって、実際のところはなかなか難しい。丸藤は「近藤(修司)戦を超える」と語っているが、好みの差こそあれ、近藤戦があそこまで盛り上がったのは、2人のタイプが違ったことが大きい。近藤はパワーファイターで、反対に丸藤はテクニシャン。互いの色がハッキリしてたからこそ、見事なコントラストが生まれたのだ。
 そう考えると、丸藤とカズは共にテクニック主体だし、感情を爆発させる瞬間こそあれ、KENTAや勝彦のような激情型ではない。対抗戦やメインイベントという緊張感が悪い方に出る可能性もある。どう例えればいいのか分からないが、昨年3月のドラゴンゲート大田区体育館大会でのCIMAvs土井成樹戦のような、“凄い動き、凄い攻防はやっているのだけれど、どこか乗れない”みたいなムードになりかねない気がするのだ。
 ただ、あくまでもそれは杞憂で終わる可能性も十二分にある。以前ディファカップで対戦経験があるが、丸藤やKENTAと対峙した時のカズの力強さ、当たりの強さは未だに印象として残っている。もしかすると、対抗戦として行われるNOAHvs全日本のタイトルマッチで、丸藤もカズも、レスラーとして新しい扉を開けるかもしれない。
 中嶋勝彦vsKENTAも“鉄板”と思われているが、このカードもなかなかどうして難しい。一番気になるのは、打撃戦というシンプルな形だけに、“飽きられやすい”という部分。観客はすでに2人の戦いが熱いことを知っていて、内容も予想しやすい。「スゲェ!」となる前に、「またやってるよ」という反応になってしまうかもしれないのだ。当然、根っこの部分のモチベーションを考えると、ウナギ登りでテンションが上がっているとは考えにくい。これまでの抗争の積み重ねや前回のシングル戦の高い評価などを考えると、「こんなもんか」というネガティブな反応すら起こりかねない。
 観客は既視感を持ち、その中でハードルも上がっていくだろう。しかし、そんな状況の中で結果と内容を残せれば、本当の意味でこの対戦は“名勝負数え歌”になるはずだ。全日本系で表現するなら、かつての三沢光晴vs川田利明のように、直近で何の因縁もなかろうと、その対戦カードに理由もなかろうと、2人がリングで対峙すれば、常に熱が生まれ、観客も興奮する。そこまでの可能性を秘めているのは、日本のプロレス界においてもこのカードぐらいなものだろう。
 カズは上の世代となるが、それ以外の丸藤、KENTA、勝彦、鼓太郎からは最近特に、主張・思想みたいなものが感じられるようになってきた。僕がよく使う“意志”という言葉がピッタリ来る。一流のレスラーに共通しているのは、観客に訴えかけるものがあるということ。それを彼らは手に入れようとしていると思う。
 残念ながらこの3試合はどれも後楽園ホールで行われる。一昔前なら、武道館や両国レベルのカードだと思うが、このカードを後楽園にぶつけても、観客的に札止めになると断言することはできないほど今のプロレス界は追い込まれている。だから、彼らには「後楽園を揺るがすような名勝負」ではなく、「後楽園をぶっ壊すような名勝負」を見せて欲しい。あの試合を生で見に行けば良かった…、この試合を後楽園でやるにはもったいなさ過ぎた…。3試合ともそんな評価を得られれば、2009年のプロレス界における強力な追い風になるだろう。
 そして、個人的に期待しているのは、この3試合の中で、彼らが“新しい一歩”を見せてくれること。少しだけでもいい。プロレス界の価値観を破壊し、新しいなにかを作るくさびにしてもらいたい。




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