第74回 踏ん張りどころ

 NOAH1月ツアーの最終戦、1・25後楽園ホール大会を取材していて、僕はNOAH後楽園大会を初めて取材した時のことを思い出した。
 記者として初めて後楽園ホールを訪れたのは、2003年6月29日のこと。タイトルの前哨戦に、新日本・真壁の乱入など内容がてんこ盛りで、試合後は「いつになったら記事製作が終わるのだろう」と呆然としつつ、必死にパソコンに向かっていたのを覚えている。記者としての取材テクニックやキーボードを打つスピードが決定的に欠けていたという側面もあるにせよ、興行には“山盛り感”があった。そして、NOAHの後楽園におけるツアー開幕戦=ネタ満載という状況はしばらく続いていたと思う。
 しかし、ここ最近はどうだったかというと、特にテーマがない試合が並んでいる時も少なからずあったし、会場で見ていても「ネタが大過ぎる…。どこを記事にすればいいんだ」と頭を抱えるようなこともなかった。
 だが、今回は開幕戦という“起”ではなく、最終戦という“結”だったにせよ、様々な部分で「なにかをしなければ」という選手の思いが垣間見える興行だったと思う。だからこその“山盛り感”だったのだろう。
 NOAHに限らず、最近の後楽園ホールでの興行は、一見すると満員に見えても、じっくりと客席を見渡してみると、実はリングサイドのパイプイスの数が少ない場合が多い。通常なら東西南は、“い”“ろ”“は”“に”の4列、北は“い”“ろ”の2列(は列もある場合あり)にパイプイスが並ぶのだが、ここ数年、これが3列だったり、2列しかないことが多々ある。しかし、この日の興行では増席までされていて、完璧に埋まっていた。北側のステージ席も20本ずつ程度が通常だが、今回はその倍近くのイスが配置されており、バルコニーや南側最上段にも立ち見ができていて、三銃士・四天王の全盛期だった90年代中盤の全日本や新日本と比べても遜色のない観客が集まっていたといっても決して過言ではない。GHCのタイトルマッチが後楽園で見られるというプレミア感があったにせよ、全力を出せばまだ観客が集まるという良い例にもなると思う。
 やはり、真っ先に挙げなければならないのは、小橋建太の復帰だ。3・1武道館での復帰については、ネットサーフィンをしていると、「時期尚早じゃないか」という意見があるが、小橋がリングに上がるということは、そういう声を吹き飛ばせるという自信があるからこそ。この長期欠場期間に、NOAHの景色は大きく動いた。森嶋や丸藤といった世代が団体の中心を担うことになり、三沢たち四天王世代は一歩引いた状態になっている。小橋がそこに割って入るのも面白いし、あえてそこをサポートする形も今なら見てみたい。どちらにせよ、小橋建太が新しい世代の触媒になる時期がやってくるのは間違いない。それはいいことだと思う。
 モハメド ヨネが力皇と共に元パートナーの森嶋を襲うという行動に出たのも、賛否両論があるにせよ、波紋を起こしたという部分では評価したい。この行動は自分たちをアピールする一方で、追い込む意味合いも出てくる。ネガティブな反応もある中で、ヨネがどういうスタンスで試合をしていくのか。軍団に加入した力皇や今後ここに加わる可能性の出てきた潮崎と比べられると、3番手になりかねない(というより、普通に考えたら3番手)のヨネがどういう戦いをしていくのかは注目していきたい。
 そして、なによりメインイベントに組まれたKENTAvs鈴木鼓太郎は、この興行の意味を表す上で重要な試合だ。ここでは改めて試合内容については触れないが、NOAHジュニアが築いてきた観客との信頼感に応えつつ、その予想をいい意味で裏切るような試合になった気がする。
 特に目を見張ったのは、試合後のKENTAのマイクだ。そこで喋ったことはもちろんだが、それを取り囲む客席の雰囲気とKENTAの関係性は、言い過ぎかもしれないが、「カリスマ」という言葉がピッタリ来た。2月に決まっている中嶋勝彦戦は、会場に来ていた“百田男”が「今のプロレス界で最高のカード」と野次っていたほどのカードだ。記者がこんな言い回しをするのはおかしいかもしれないが、あそこまで試合を見てきたマニアックなファンが思わずそう言いたくなるのは、それほどまでに“KENTAがNOAHの中心にいる”という空気が後楽園に充満していたからに他ならない。そのぐらいしっくり来る興行の締めだった。
 今の流れを総合すると、NOAHは全精力を持って、3・1武道館に進むつもりなのだろう。出し惜しみなんてしている余裕はないし、それこそ後がないほどの悲壮な決意を感じずにはいられない。だから、なんとなくNOAHと距離を置き始めていたり、プロレス自体に魅力を感じられなくなっているファンも、“これでダメならもう諦めるしかない”ぐらいの決意を持って、この武道館大会を見て欲しい。2009年…いや今後のNOAHの命運はこの日、決まると断言しても言いすぎではないだろう。果たして、ここで踏ん張れるのだろうか――。




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