第75回 インタビューの読み取り方

 今回もインタビューについて書いてみたい。僕がなぜこうもインタビューについてばっかり文章にしているかというと、今や僕の仕事はほぼ“インタビュアー”になっているからだ。
 例えば、先週1週間は連日取材が入っていたのだが、最終的なまとめ方はコラム形式だったり、1人語りだったり、様々な形はあるにせよ、その全ての取材がインタビュー。大物役者からお笑い芸人、はては女子高生グラビアアイドルまで幅広く、正直かなりグッタリしている。取材することは楽しくても、それを原稿にするのはホントに苦労する部分で、深夜3時を回ってもこうして会社のデスクに座り、記事を書いているような状況なのだ(その合間にコラムを書いてます…)。
 この前は取材方法や組み立て方について書いたが、今回は文章のまとめ方について書いてみよう。
 普通の仕事をしていたらなかなか気付かないことだと思うが、口で喋った言葉をそのまま文字にすると、基本的におかしな文章になる。例として、好きな食べ物を聞いた時、どうなるか書いてみよう(あくまでも架空の例です)。


――Aさんにとって好きな食べ物はなんですか?
「うーん、なんだろうな。凄い…好きな食い物か…」
――甘い物とか、逆に辛いものとか、いろいろありますけど、例えば…。
「凄い好きなのは、辛い系かな。全然甘い物も凄い好きだけど。昨日、偶然凄い店を見つけてさ。凄い辛いカレーを食って、ビックリした。凄いうまいけど、メッチャ辛いみたいな」
――得意?
「得意は得意だけど。あとは凄い…麻婆豆腐みたいな、感じのものもいけるよ。カレーもそうだし」
――次の質問なんですが…。


 読んだだけで変な文章だと感じると思うが、人間の喋り言葉なんて実際はこんなものだ。会社の社長や大学教授、講演会なんかを頻繁にやっている文化人…プロレス・格闘技界でここに入れるならば、団体の代表やフロントのトップに位置するような人たちも、音声データからそのまま全部文章に起こすと、意味が繋がらないことを言っていたり、同じことを何度も繰り返し言ったりする場合が多々ある。
 では、上の文章をどうまとめるか、考えてみよう。


――Aさんの好きな食べ物は?
「甘いものにも目はないけど、もっと好きなのは辛い食べものだよ。昨日、偶然美味しそうなカレー屋を見つけたんで、入ってみたんだけど、驚くほど辛くてさ(苦笑)」
――でも、そのきつさがいいと(笑)。
「そうそう。麻婆豆腐も辛ければ辛いほどいいかな」
――分かるような気がします。次の質問なんですが…。


 極端な例という部分もあるが、このぐらいの書き直しは僕の中ではギリギリ有りなパターン。一読者としては驚かれる方も多いかもしれない。しかし、問題の主旨を分かりやすくし、盛り上がりを作った上で、次の話に繋げているという意味合いはしっかり出ていると思う。
「原型をとどめてないじゃないか!」と言われればそれまでだが、この原稿を取材対象がチェックし、OKならば、それが生きた原稿に変わるのだ。これ以上過剰になって、まったく話してないコメントを入れたり、そこまでする必要があるのかと思うぐらい強弱を付ける人も当然いるはず。もちろん話題の順番を入れ替えることもあるし、ニュアンスを強めたり、弱めたりすることもある。
 そこにはスペースの都合があるからこそというのはあるが、あまりにも流れるようにインタビューが進むのも、個人的には引っかかりがないような気がして好きじゃない。取材する現場の空気感や雰囲気をどう落とし込むのか? そして、それをどう伝えやすく読者に提示するのか? どこに原稿の山場を作り、テーマとして見せるのか? いろんな要素があって、そこが面白い部分でもあるし、難しい部分でもある。原稿を書いてる時はまるで複雑なパズルを1ピースずつ置いているような気分になるのだ。

 先日、とある芸能人の2分ほどのコメントを文章に起こしたら、「凄い」という言葉が10回以上出てきて驚いたことがあったが、言葉選びも人それぞれで、本人がまったく気付いてないような癖が見つかることもある。この「凄い」と連発している人は、同じような状況が続いていくと、視聴者も気づき、なんとなく気になってしまうようになるだろう。これが、良い意味での癖だと、その人らしい話し言葉になるから不思議なものだ。
 プロレスラーの取材だと、ニュアンスが特に大事になるので、ここまで豪快な編集はしない。例えば、以前Gスピリッツに連載していた長州力の人生相談を思い出して欲しい。あの原稿は今までの話の真逆をいく形で作られていて、長州の口癖やその時の微妙なニュアンスをそのまま詰め込んだ企画だ。もし、長州のコメントが流れるように進み、なんの引っかかりもなかったら、面白さが半減してしまっていただろう。
 そんな風に1つ1つのインタビューには、編集・ライターサイドの考えが詰め込まれているし、悪い言い方をすれば、誤魔化しも行われている。読者が望むのは100のツッコミなのに、インタビュアーが50しか聞けていないため、必死に誤魔化して70ぐらいの濃度にしているものもあるだろうし、逆に和らげているものもあるだろう。読者の方も、文章そのままを受け取るのではなく、様々な角度からインタビューを読む癖をつけると、見えないものまで見えてくるかもしれない。




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