第76回 繋げる努力

 KENTAvs鈴木鼓太郎、丸藤正道vsカズ・ハヤシ、KENTAvs中嶋勝彦。この3つの試合はどれもベストバウト級の試合だった。会場を見ても、最近のプロレス界では年に何度もないほどの盛り上がりだったし、後楽園ホールでの大会だったとはいえ、チケットはほぼ完売。プロレス界に熱を取り戻すキッカケになりえる興行だったと思う。
 ただ、個人的な感想を言わせてもらえれば、もっと“ずらす”部分が欲しかった。今のプロレス界から“ずらす”、観客の期待から“ずらす”、2人のこれまでの戦いから“ずらす”…。そんな引っかかりが欲しかった。「遊びがない」という言い方が正しいのか分からないが、予想を超える場面はあっても、予想を裏切る場面はあまりなかったような気がする。まあ、それは僕がプロレスを見すぎてしまっているからこそなのかもしれないが…。
 例えば、全日本の後楽園大会で言えば、僕は丸藤vsカズよりも、近藤vsブラザーの方が印象に残っている。それは、この試合に2人の積み重ねてきた時間が見えたからだろうし、そこからこれまでドラマや2人の思いが感じ取れたからだ。別に丸藤vsカズに気持ちが感じられなかったとか、思いが込められていなかったなんて言うつもりはないが、僕が好きなプロレス、僕が追いかけてきたプロレスに近いのは、近藤vsブラザーだと思っている。
 もう1つ、感じたのは観客の盛り上がり方だ。たぶん定期的にプロレス会場に足を運んでいる人が今回の会場にいたのなら、「物凄い盛り上がりだった!」となるだろう。しかし、90年代の一番いい頃のプロレス会場を経験した人が久しぶりに見たプロレスが今回のだったなら、ちょっと違う感じがしたんじゃないだろうか。
 この感覚も盛り上がっているからこそなのだが、僕は今回感じたのは“会場の熱の無さ”だ。盛り上がっているし、大きな歓声が飛び、コールも起こっている。でも、これはかつてあった地熱が立ちこめるような深い意味での盛り上がりではなく、一部のファンがコールを起こしたからこそ発生した盛り上がりであって、実は表面的なのだ。
 100点と0点を比べているのではなく、80点と60点を比べているようなものなのだから、ピンと来ないかもしれないが、事実、この3試合は全て同じ一部の観客がコールを起こしているのだ。煽られないとなかなか沸点に達せない今のプロレスファン気質を改めて感じさせられた。
 しかし、今回の試合では、観客なら我を忘れてしまうほどの興奮や熱があったのは否定しようのない事実だ。これからはこういう熱を再度引き起こす努力以上に、この熱を冷めさせず、次に繋げていく努力が必要だろう。最近のプロレス界は局地的な盛り上がりはあっても、それが継続していかないため、線にはならず点で終わってしまう。大会場にお客が入った。しかし、次期シリーズの開幕戦は今ひとつ。それではしょうがない。どんなに凄まじい盛り上がりがあっても、続いていかなければ意味がないのだ。プロレス界は、この3試合が作りだした超満員の会場といい雰囲気を、何としても次に繋げていってほしい。それは「今回の試合が2009年のベストバウトに選ばれるかどうか?」なんて今から考えることよりも、何十倍も大事なことだと思う。




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