第53回 鼓太郎のDESTINY

 鈴木鼓太郎は僕が初めてパソコンにその名前を辞書登録した記念すべきレスラーだ。記者に成り立てで、パソコン初心者だった僕は、「鈴木 太鼓 太郎」(すずき・たいこ・たろう)と打ち込んで、太を一文字削るという入力方法をしていた(さすがに、打ち込む機会があまりにも多いことに気づき、数日後には辞書登録を済ました)。
 僕の中での鼓太郎のイメージは、NOAHジュニアにおける三男坊。長男・丸藤正道、次男・KENTAに続く3番目の末っ子という感じ(ちなみに金丸義信は小粋な叔父さんで、橋は放蕩者の従兄弟というのが僕の勝手なイメージ)。感情をあえてスマートに隠しきる丸藤、ほとばしる情熱を隠そうとしないKENTAに比べ、鼓太郎の芯となる部分はなかなか掴めない。末っ子らしく、あまり感情的にならず、周りを見比べながら、先輩たちを相手にうまくプロレス界を渡ってきた印象がある。だから、素の鼓太郎はどんな人間で、どんな感情を隠し持っているのか、それをリング上で発揮することなくここまで来たんじゃないかと思う。
 まあ、うまく渡ってきたと言っても、逆を返せば便利屋扱いされてきた部分も少なからずある。ここで具体的には書かないが、総合的に考えると、鈴木鼓太郎という一レスラーとしては、遠回りだったことは否めない。自ら望んでいたのか、望んでいなかったのかは分からないが、結果的にレスラーとしての一番の目標を“別の形”で達成してしまったのだ。
 三沢光晴や小川良成のパートナーという立場は、ある程度のレベルに達するまでは大変だが、それなりの動きができるようになれば、ある意味、気楽な立ち位置だと思う。ましてや下の選手も増え、鼓太郎自身も先輩になった。先輩の付き人としての雑務もなくなり、自分の戦いだけに集中できるようになって、プロレスラーとしての巧さや実力も格段に進歩した。プライベート面でも結婚し、今や誰にも文句を言われないレスラーになったと断言してもいいだろう。しかし、今でも鼓太郎の感情がヒシヒシと伝わってくるような場面は少なく、どこかファンとしても鼓太郎の存在に乗りきれない部分がある。
 そんな中で、鼓太郎が決断したのが、リッキー・マルビンとの決別、そして、金丸義信とのタッグ結成だ。マルビンとの結びつきは単純にリング上だけでなく、リング外でも強かった。まだ合宿所住まいだった頃は一緒にゲームをした話を嬉しそうにしていたし、ルチャのテクニックを教えてもらっていた時期もある。現時点の鈴木鼓太郎を語る上で、真っ先に出てくる名前がマルビンなのだ。
 そのコンビを解消し、逆にほとんどタッグを組んだことのない金丸をパートナーに選んだということは、それだけの決意があるはず。さらに、そのタッグ結成が必然的に三沢&小川離れに繋がり、最近は激しくやりあう場面もあったという。そこまで最近は会場に顔を出していない僕にとってはまだピンとこない部分もあるけれど、実際にこの夏で、鼓太郎は大きな区切りを迎え、レスラーとして新章に突入したのだ。
 しかし、今の鼓太郎を見ていると、三沢&小川からの“親離れ”をし、マルビンから“独り立ち”したという印象はあまり感じられない。まだ手探りな部分は否めず、ヒールとしての自分を打ち出しきれずにいて、中途半端なところで立ちつくしているようにも見える。
 だから、ここで見せて欲しいのは、名勝負でも華麗な新技でもなく、とにかく素の感情だ。僕がGスピリッツの紙面でKENTAの記事を担当した際に一番驚いたのが、鼓太郎がKENTAに対してのこだわりを語っている記事に遭遇した時だ。まだ若手時代に、ジュニアとしては一番近い存在である先輩・KENTAに対する思い入れやジェラシーを語っている鼓太郎は、確かに青臭い感じはしたけれど、逆に新鮮だった。そんな風に上の先輩やライバルたちに噛みつく鼓太郎の姿が今こそ見てみたい。
 試合後や会見でのコメントを聞いていると、以前と比べて刺激的な言葉を吐くようになったし、しっかりと考えながら話しているのは伝わってくるけれど、それと同時にその芯にあるべき熱は落ち着きを持つようになってしまった。だが、鼓太郎の戦いに今以上の熱が生まれた時こそ、NOAHのジュニアがこれまでを越えるような輝きを見せてくれるのはでないだろうか?そんな気がしてならない。
 今後はどうなるのか不明だが、現在開催中のタッグリーグには丸藤がジュニアとして参戦している。KENTAは相変わらず激しいファイトを続けているし、それに引っ張られるようにして石森にも存在感が出てきた。金丸の安定感はピカイチだし、ブライアン・ダニエルソンやデイビー・リチャーズなど外国人選手も目立ってきた。当然、中嶋勝彦など他団体の選手も絡んでくるだろう。なんなら橋がジュニアに戻ってきたっていい。さらには、青木篤志を筆頭に若手選手も最前線に加わってきている。このメンツが揃えば、丸藤&KENTAが引っ張っていた数年前のNOAHジュニアにも負けない新しいムーブメントが作れるはずだ。その中心になるべき使命を持っているのは、誰がなんと言おうと鼓太郎なのだ。
 僕は4年前、鼓太郎のインタビューしたのをキッカケに『機動戦士ガンダム』に興味を持つようになった。最初は小説版を見る程度だったが、この1年で地上波放送されたガンダムシリーズのビデオを一気に全て見てしまった。
 ガンダムの物語に共通しているのは、まだ10代の主人公が大人の社会にいきなり放り込まれ、右往左往して悩み、苦しむことだ。時には逃げ出すことだってある。しかし、彼らは激闘に次ぐ激闘の最中で、仲間や先輩に支えられながら、いつしか自分の使命に気づき、それを全うしようと、最終的には自ら戦火の中に飛び込んでいく。
 所詮はアニメの世界だと笑われるかもしれない。鼓太郎はニュータイプじゃないし、たしかに設定だって置かれている状況だって違う。ただ、鼓太郎もNOAHジュニアという世界の中で自分がしなければいけない戦いに飛び込んでいかなくてはいけない時期に来ているんじゃないかと思う。ガンダムを操るパイロットたちのように、突き抜けた鼓太郎を見てみたい。それがなければ、NOAHジュニアに新しい景色が広がらない。




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