第55回 小橋とヨネの踏ん張りどころ

■ヨネが「いきますよ、お客さん」を捨てる時

 モハメド ヨネのGHCヘビー級王座初挑戦が決定した。なにはともあれ“初”が付くものは祝福されてしかるべきだけれど、ヨネの場合は「いよいよ」よりも「やっと」という言葉の方がしっくり来るかもしれない。
 新王者・佐々木健介の初防衛戦。普通に考えれば、「外敵からベルトを絶対取り返してくれ」と応援が集まるものだが、状況はまったく違う。どちらかと言えば、健介がベルトを獲ったことに対して「是」とする意見が多いということもあるし、それ以前にヨネが勝つと予想している人がほぼゼロに等しい状況というのもある。突き詰めた言い方をすれば、「ヨネの次に誰が挑戦するんだろう」なんてことがファンの中で話題に上がっているほどだ。
 考え方を変えれば、ヨネに失うものなどなにもないわけで、ましてや負けて当然という見方をされているのなら、余計なプレッシャーなどを感じずに、何でも受け止めてくれるであろう健介に対して猪突猛進すればいいのかもしれない。ただ、たぶんヨネはそれを良しとはしないだろうし、実際にそれをしてしまったら、ヨネというレスラーの限界が見えてしまうのではないかと僕も思う。
 周りがどんな見方をしようと、ヨネ自身は“勝とうという気持ち”でいなければならない。いや、そんな甘い感覚ではなく、“勝つ気持ち”でなければ意味がない。いい試合ではなく、勝つ試合を見せなければならないのだ。まあ、それはプロレスラーとして当たり前のことなのだが。
 ヨネ自身もそれが分かっているからこそ、本人言うところの「テロ行為」に出たのだろう。まるで自分を逃げることができないところまで追い込んでいるようにも見える。
 ヨネはほぼ毎試合のように「いきますよ、お客さん」と叫ぶ。でもこれからは「いきますよ」なんてわざわざ問いかける必要なんてない。突っ走るだけ突っ走って、お客さんを置き去りにするほど無鉄砲になってほしい。試合でどんな結果が出ようと、たとえ非難・批判を浴びようと、「いいヤツ」に戻ることなく、他のレスラーに対してキバを剥き続けるヨネであって欲しいと思う。


■小橋建太が戻ってくることは決まっている

 小橋建太が再び長期欠場に入った。欠場理由は『右腕遅発性尺骨神経麻痺および両肘関節遊離体』。くしくもこの負傷は今年の春から夏にかけて欠場していた全日本プロレスの小島聡と一緒(詳しくはコジログをチェック!)。小橋自身は一部報道によると年内中の復帰を目指しているらしいが、早くても年明けというのが現実的なラインかもしれない。
 ネットなどを見ていると、小橋を心配する声が後を絶たない。僕にも数名の知り合いから「小橋は大丈夫なの?」という連絡をもらった。
 ただ、僕自身はまったくと言っていいほど心配していない。これまでのレスラー人生を振り返れば、それこそ怪我との戦いの歴史と言っても過言ではない小橋だが、これまでの苦労を考えれば、この負傷を小橋が乗り越えられないはずがない。「戻ってくると信じている」なんて表現がプロレスマスコミは好きだけれど、僕は「戻ってくる」と断言したい。
 思い起こせば、1年前、ちょうどGスピリッツ創刊号で取材をした頃は、まだ腎臓ガンからの復帰を目指してトレーニングを続けている最中だった。復帰日はまだ正式に決まっていないのにも関わらず、必死に自分の体を一から鍛え直していた。復帰後、全戦出場せずにしっかりと休息を入れていたとはいえ、小橋はずっとアクセルを踏み続け、トップスピードで走ってきた。ガンの影響云々の前に、体を酷使しているのは確かだろうし、ヒザや腰などにはダメージが蓄積しているはず。そういう意味でポジティブに考えれば、今回の欠場は小橋の肉体にとってはいいタイミングでのオーバーホールになるのではないかと思う。
 前回の欠場期間はそれこそ命を懸けた戦いだった。本当に復帰できるのだろうかと何度も自問自答したことだろう。しかし、今回は違う。小橋の中では復帰することがすでに決まっていて、今もやはりプロレスについて「復帰したらこうしよう」「あんなことがしたい」「こんな新技がある」と、寝る間を惜しんで考えているに違いない。
 右腕の負傷はやはりチョップやラリアットを多用してきたことに影響があるはず。この負傷から復帰した後は、ある程度スタイルを変える必要性に出てくるだろう。小橋は「男は40歳から」と言った。だから、必ずリングに舞い戻り、もう最終コーナーを回ったであろうレスラー生活で、もう一度新しい自分を見せてくれるのではないかと思う。




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