第57回 幕を引く時

 現在、Gスピリッツ編集部はVol.9制作の真っ最中。今回も特集が組まれているが、僕個人の感想となってしまうけれど、ハッキリってかなり面白い(とは言っても、特集の記事は半分ぐらいしかまだできあがっていないが)。まあ、僕も2つの企画に携わっているということもあるけれど、特集以外にも読み応えのある記事が多く、今まで以上に濃い内容となりそうだ。
 Gスピリッツ以外にも、パチンコ誌やスコラの作業が重なっており、連日のように取材やインタビューが続いていて、まったく休む暇がない。
 そんな中で、このコラムは自分の好きなことを好きなだけ書けるので、後回しになりがちだけど、いい気分転換になっている(ちなみに自分でアップしているので、誰のチェックも入りません)。
 普段、このコラムは3つか4つのアイデアがあって、その中から一番書きたいと思ったり、最も旬だと思ったものを選び、パソコンの前に座って、よーいドンで書き始めている。だから、いざ書いてみたらいまいち盛り上がらず、その時点でやめてしまったことも多々あるし、日の目を見ないままズルズルと時間だけが過ぎてしまうこともある。
 例えば、ついさっきまで僕が書こうと思っていたのは「プロレスにおける表情について」だし、ストックとしては「越中詩郎が語る平成維震軍のちょっといい話」がある。書きたいと思いつつ、何度書いても納得がいかなくて、ずっと後回しになっているのはボクシングに関するコラムだ。
 大事なのは僕自身の気持ちとタイミング。そこで今回は、これまで書こう書こうと思っていたストックの中から、僕が最近迎えたタイミングにピッタリの題材について書きたい。

 私的なことで恐縮だが、10日ほど前にとうとう三十路に突入した。
 最近、一番感じるのは「衰え」。去年ぐらいまで“かけ出し記者”と言い張り続けてきた僕にとって、記者や編集者という部分だけを見れば、衰えるなんて感覚はまったくなく、どちらかというと、伸びしろばかりだと思っている。しかし、肉体面は別だ。かなりガタがきているし、昔のようにムチャが効かなくなってきた。
 精神面もある程度自分なりの形ができあがってしまい、なかなか変わることができなくなってきている。成長を実感できる機会は少なくなり、変化が欲しくても一歩を踏み出すことができなくなってきた。年齢的にはまだまだだけれど、内容の密度を考えれば、もう人生の折り返し地点と言ってもいいかもしれない。
 そんな気持ちのまま、目をリングに移すと、レスラーたちの戦い方もまた違って見えてくる。
 僕が10代の頃、自分を重ね、声をからして応援していたレスラーたちも当然「衰え」た。まあ、よく考えてみれば、僕なんかよりも一回り以上も年上なわけで、レスラーとして肉体を酷使してきたんだから、当たり前と言ってしまえば当たり前のことなのかもしれない。僕は三銃士・四天王直撃世代だが、もうとっくに彼らの全盛期は過ぎている(小橋はそれを認めないだろうけれど)。
 頭から落としたり、場外へ投げたりという危険な技が生まれてくる過程でプロレスをしてきた彼らの肉体に、どれだけのダメージが蓄積されているのかは計り知れない。シビアな話をすれば、今後それが予想だにしない形で噴き出す可能性も決して低くはないだろう。
 そんな彼らがどうやってプロレスとの関係にケリを付けて、自分なりに幕を引くのか。そんなことをよく考えるようになった。
 僕が好きなアーティストの中に篠原美也子さんという女性歌手がいる。10代からずっと聴き続けているから、ある意味、彼女が歌う曲たちを戦友みたいにも思っているほどなのだが、彼女がメジャーデビューして6年後に契約を解消され、数年後にインディーズとして活動を再開した時のことを野球に例えていたのが印象として残っている。
 ドラフト1位で夢にまでみたプロ野球の選手になれた。けれど、結果を残せた期間はほんの数年で、それからはもがくばかり。やりたくないこともやり、無理矢理自分を変えてもどうなるわけでもなく、何より野球が嫌いになって彼は引退してしまう。しかし、たまたま誘われた草野球で久しぶりにマウンドに立った彼は気付く。「こんなに野球って楽しいものなんだ」と。(実際はもっとちゃんとした文章で表現されています)
 四天王や三銃士はもちろん、第三世代と呼ばれる選手たちも中に入れていいかもしれない。彼らがリングを降りる時は確実に近づいてきているし、選手本人もそれを自覚していると思う。
 彼らをいちファンとして見ていて、今感じるのは「ベルトを獲って欲しい」とか「いい試合をして欲しい」「MVPなってほしい」なんてことじゃない。ただただ「プロレスっていいもんだなあ」「俺はプロレスが好きなんだなあ」と思って、少しずつではあるけれど着実に減っているレスラー生活を過ごして欲しいということだ。
 現在のプロレス界は面倒くさいことも多いし、それこそ内部にいれば「プロレスって嫌なもんだなあ」と思うことだってあるはずだ。だからこそ、別にメインイベントに出てこなくたったいいし、全盛期に見せていたファイトの面影すら見えなくなってしまってもいいから、自分がやりたいプロレスを思う存分楽しんでもらいたい。僕みたいな30歳になりたての若造が言うようなことじゃなかったかもしれないが、彼らが引退する瞬間までは、どんなにプロレス界が低迷しようとも、どんなに僕自身がプロレスを嫌いになろうとも、しっかりと見届けていきたいと思っている。




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