第58回 丸藤が持つKENTA戦以上(?)の宿命

 丸藤正道とKENTAが久々にシングルマッチで激突する。過去の戦績を調べれば、当然後輩のKENTAが負け越しているが、タイトルマッチとしての対戦となると、1勝1敗。過去2回と同じ日本武道館での試合はある意味、決着戦になるし、今後のライバル関係においてどちらが一歩リードするかを決める戦いにもなるだろう。
 過去2戦はどうしても大技ばかりに話題が集まってしまった感があり、個人的には好きなタイプの試合とは言えないのが素直な気持ちだけれど、この2年間で2人は「シンプルな戦い」を目指してきていたから、今回はかなりの期待感を持っている。
 ベストバウトを受賞した2006年10月の武道館大会は丸藤vsKENTA以外に注目カードが組まれず、まさしくそのシングル1本で勝負された興行だった。2人の対決はすでにブランド化していたが、武道館を超満員にするところまでは達していなかった。ここ数年の2人は明らかにジャンプアップを果たし、レスラーとして大きく飛躍している。極端な話、いきなりKENTAが丸藤の顔面をストレートで打ち抜きKOしたり、逆に丸藤が普段見せないグラウンドで圧倒し、スリーパーで失神させたりしたら、プロレス界の流れが一瞬にして変わる。それぐらいの影響力を持っているのだから、ファンの予想をいい意味で裏切り、ファンの想像を遙かに超える戦いを見せて欲しい。
 この2人について、昔、NOAHに帯同していた頃の僕がどんなことを書いていたのか気になり、『格闘魂』時代のコラムを読み直してみると、こんな文章が見つかった。(以下引用。一部省略&再編集しています)

「元々刺激的な言葉を発することの多かったKENTAだが、それはリップサービス的な部分も大きかったと思う。しかし、七番勝負でGHCヘビー級の歴代王者と対戦し、大きな変化が起きた。打撃の技術が向上したとか、『TWISTA』や『go 2 sleep』などの新技が生み出されたとか、そういう表面的なことではなく、それは『気持ち』だと思う。
 倒されても倒されても相手に向かっていくことで、試合からKENTAの感情がほとばしるようになった。負けたくないという思いや、これで倒してやるという激情や、怒りや嫌悪までも見えるようになった。七番勝負が進んでいくにつれて、男性ファンの声援が増えてきたのも、その気持ちが原因だと思う。KENTAの感情に刺激を受けて、今まで以上に感動したり、自分を重ねたりすることが出来るようになったからだ。本人のたたずまいや雰囲気、表情も大きく変わってきた。
 逆に丸藤はいつでもポーカーフェイスで、ほとんど激しい気持ちを見せない。果たしてKENTAと向かい合い、対戦相手の“勝ちたい”という激情に触れた時に、どんな化学反応を起こすのか。“後輩だと意識してない”“俺を追い詰めてひらめかせて欲しい”と話していた丸藤が、“こいつのは絶対負けたくない”と思うまで追い込むことが出来るのか。明日からいきなり変わるということはないだろうが、いつか2人が別の道を歩みださなくてはいけないということは、本人たちも分かっていること。きたるべき日に向けて、今日、スタートが切られることになることになりそうだ」

 このコラムはKENTAが七番勝負の最終戦として丸藤と対戦したその日の朝に更新されたもの。今の状況を知った上で読み返すと、2人が想像以上に成長したことが分かる。
 そして……先にネタばらしをしてしまうと、実はここまでは前振りの文章なのだ(無意味に長くてすいません)。

 さらに、自分のコラムを読み返しているとこんな一文を発見した。
「橋にとってのDESTINYは、丸藤との対戦だ」
 これは2005年7月18日に開催されたNOAH2回目の東京ドーム大会『DESTINY』の直前に書いたコラムの一部。3年も前から橋について熱く語っていたのかと自分で自分に呆れる部分もあるが(苦笑)、確かに橋からすると丸藤は“運命の相手”なのだろう。
 橋は白いベルトを除くと、全部4回ほどGHCの名が付くタイトルに挑戦しているが、そのうち3回は対戦相手に丸藤の名前があった。直接勝利を挙げているGHCジュニア王座戦もあるが、これはあくまでアクシデントによる勝利で、橋は即ベルトを返上している。残る2試合は当然敗退。橋にとって丸藤は常に自分の前にそびえる高い壁だった。
 先日、白GHC王座を奪取した橋だが、試合後、上位陣を相手にした防衛戦を希望していたという。当然その発言の裏側では丸藤を意識している部分があるはず。丸藤からすると、因縁をつけられるようなもので、ありがた迷惑かもしれないが、丸藤と橋はいつか必ずリングで対峙しなければならないと思う。個人的に言わせてもらえば、丸藤vsKENTAよりもこの対決の方が見たい!(こんなこと思っているのは僕だけかもしれないけれど…)
 そして、丸藤を軸に考えると、もう1つ宿命の対決が残されている。それは金丸との一騎打ちだ。
 デビュー戦の相手は金丸が務めているし、丸藤自身も「金丸に影響を受けた」と常々語ってきたが、意外にもこの2人のシングル戦はNOAH旗揚げ直後に何度か前座試合として行われているだけで、その後は一度も実現していない。もちろんタイトルマッチとしても。
 丸藤がヘビー級として戦うようになったため、2人の距離はさらに離れたかと思われたが、丸藤が世界ジュニア王座を獲得したことで、戦う可能性がホンの少しだけ見えてきたような気がする。僕は勝手にこの対戦を煽る企画をGスピリッツの会議で言ったことすらある。百歩譲ってタッグを組むのでもいいから、とにかくこの2人の絡みを見たい。
 今回は丸藤を中心に書いてきたが、KENTAvs橋はそれ以上に刺激的な戦いになるだろうし(お互いの持ち味を一番発揮できる相手のような気がする)、KENTAvs金丸も東京ドーム以来組まれていないカード。あの試合の後、KENTAは技の失敗を悔いていた。だからこそ、大舞台での再戦を見ていたい。
 今のプロレス界には夢のカードなんてほとんど残っていない。実現していない対決はもともと不可能な対戦か、逆に旬を過ぎてしまったものばかりだ。ならば、たとえコップの中の嵐にしかならなくても、その団体を応援するファンが夢だと思うカードを、プロレスに勢いがなくなった今だからこそ組んで欲しい。




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