第59回 初めての相手

 来週発売の『Gスピリッツvol.9』は“王道”を掘り下げた特集だ。その意図は清水編集長が水曜コラムで話しているので、そちらを参照してもらいたい。今号に登場する選手の名前だけを見ると、あまり刺激的ではなく、「なんでその人選?」と思われる方がいるかもしれない。だが、実際に本を読んでもらうと分かるが、これまでにない一歩踏み込んだ王道検証に仕上がっているはずだ。
 僕は今回、丸藤正道と池田大輔のインタビューを担当した。もともとちゃんとしたインタビューをしたかった相手だし、聞きたいことも沢山あったが、結果的には特集の核になるインタビューに仕上がったのではないかと思う。
 丸藤は僕が“初めてインタビューに同席した”時の取材対象だった。『格闘魂』の記者となって1週間ほど経ったある日、先輩に連れられ記者としては初めてディファ有明に行くことになった。その日は丸藤とKENTAがGHCジュニアタッグ王座を戴冠し、その一夜明け会見が行われたが、その終了後にインタビューがセッティングされていたのだ。もちろん僕がインタビューをするわけではなく、先輩の横に座っていただけだったが、僕を見た瞬間、丸藤が「なんでここにいるの?」と驚いていたのが印象に残っている。
 丸藤が全日本プロレスに入団した頃、僕はすでに後楽園ホールの係員として働いていた。練習生や若手は先輩から用事を命じられることが多く、係員にも「○○ってないですか?」「○○が売っている店ってこの近所にあります?」と聞かれることが多い。当時の全日本プロレスは特に後楽園での興行が多く、丸藤と顔を合わせることが多かった。そのため、なんとなく顔見知りのような関係になっていたのだ(単純に僕がデカいため、目立っていただけかも知れないが)。
 その後、僕はNOAH担当として巡業に同行するようになり、毎日のように丸藤を取材することになった。1時間近くのインタビューも数回したことがある。その頃の丸藤はヤンチャで、自由気ままな、ファンが思っているそのままの男だった。長時間話を聞こうとしても、途中で飽きてしまうこともあったし、真面目な話はあまり好きではなく、話が逸れてしまうことも多々あった。
 以前このコラムでも書いたが、最近になって丸藤の試合後のコメントを取材した際、その印象に大きな変化を感じた。じっくりと考えを巡らせるようになったし、その思いがちゃんと記者に響くようにもなった。ベルトを巻いたことや後輩がデビューしたことで、今まで以上に自覚や責任感が出てきたのだろう。
 今回のインタビューでは一切笑いを挟むことなく1時間半も取材をさせてもらった。ちょうどKENTA戦に世界ジュニア王座のベルトを賭けたいと表明した記者会見があった日に取材をしたが、KENTA戦についてはあえて一言も聞いていない。話題は今のプロレス界について。正直かなり厳しい意見をぶつけられて、答えにくい場面もあったと思うが、真摯に自分の思いを語る丸藤には「プロレスを背負う」という気概が見て取れた気がする。詳しい内容は次週で触れるとして、とにかくこれまで専門誌上ではなかったであろうロングインタビューで丸藤の思いを感じ取って欲しい。
 丸藤が最初に同席したインタビューなら、池田は“初めてインタビューした”選手だ(モハメド ヨネと一緒に取材)。池田には今回、外部から王道に足を踏み入れ、そして最終的にNOAHを離脱し、フーテン・プロモーションを立ち上げるまでの苦悩を語ってもらっている。僕自身、ファンとして池田が全日本に参戦する姿を見てきたし、記者となってからはNOAH所属選手として取材をしてきたが、常に池田の横には大きな葛藤があったんだと思う。吹っ切れない苦しみが表情や戦い方に出ていたこともあったが、だからこそ今のバチバチを見ていると、「回り道をしたけれど、この人は最初からここにいるべき人だったんだな」と感じる。今回の取材では衝撃的なことを明かしてくれたが、そこにこそ池田の純粋なプロレス観が詰まっているはずだ。
 初めてインタビューに同席した時の相手と、初めてインタビューした相手の2人を取材し、自分が納得いくものに仕上げられたという意味では、僕にとってこの号はとても思い入れ深い雑誌になった。全日本ファンもNOAHファンも、そして新日本ファンやオールドファンにもぜひ読んでもらいたい。




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