第65回 アイドルとプロレスの共通点

 ここ最近はプロレスライターではなく、アイドルライターの比重が大きくなってきている。ここ1ヵ月もプロレスラーを取材したのは数える程度。逆にアイドルには10回近くインタビューしている。これだけいろんな女の子の話を聞いていると、さすがにアイドル界の現状が見えてきたが、これが意外とプロレス界にも通じる部分が多いのだ。
 まず言えるのは、敷居の低さ。今は自分で「私はアイドルだ」と言えば、成立する世の中になってしまっている。事務所に所属しなくても、HPや動画系サイトで自分を売り込むことができるし、変な話、お金さえあればそこそこのカメラマンにグラビアを取ってもらって、写真集を作ることだって可能だ(デジタル写真集なんてものもある)。
 これはプロレスにも言えることで、自分で「俺がレスラーだ」と言い張れば、その時点でほぼレスラーになれる。もちろん怪我をしない程度のフィジカルや受け身の技術、観客を惹きつけるパフォーマンスは必要だが、言ってしまえば、「最低限」あればいいだけで、苦しい世の中、そんなことよりも先週のコラムで書いたチケットを売る能力の方が必要とされる。今はかなり微妙なインディー選手や地元密着型団体の選手が、当然のようにメジャー団体にも出場できる時代だ。これが十年前だったら、インディーの選手はメジャーの洗礼を受け、ボコボコに潰されるのが常だった。それが、逆に「あの人たちは頑張っている」なんて声がメジャー団体のレスラーから起こるのだから、プロレス界の価値観が物凄い勢いで変わっているのが如実に分かる。
 アイドルになるのは簡単だが、そこで待ちかまえているのが人材過多だ。ある企画のため、100人近くのプロフィールを見る機会があったが、1人も知っている名前がなかった。当然、「これはアイドルって呼べないよなあ」なんてコもいる。昔は選ばれた人間しかアイドルになれなかったのに、世の中が多様化し、アイドルという括りが広がり、必要とされる場面が増えてきている。そうなると、スカウトの仕方も変わり、言い方は悪いが、片っ端から声を掛けるような状況になってしまっているのだろう。たぶん、事務所やテレビ局も、次に誰が売れるのかなんてまったく読めず、手当たり次第に手を出しているのだろう。アイドルの人数は増えても、芸能活動だけで食えている割合は減っているはずだ。
 プロレス界も90年代から他団体時代を迎え、爆発的に団体数が増えて、それと同時にレスラーの数も増えた。その時点では、プロレスラーになりたくてもなれなかった人が、裾野が広がったことでレスラーになれる状況になったのだと思う。その頃は「元○○の練習生」なんて話を聞くことも多かった。
 それが2008年にもなると、条件面をひとまず無視して考えると、団体数がさらに増え、求められるレスラー数もさらに増えている。しかし、冬の時代にレスラーになりたいと思う人間は、驚異的なスピードで減ってきているのが現実で、もう数年経つと、需要と供給のバランスが崩れ、レスラーになりたいと思った時点でレスラーになれる時代がやってくるだろう。でも、団体側だったり、テレビ局の立場から考えると、その中で誰が人気を呼び、観客を集めることができるレスラーになるのかは、今以上に分かりにくくなってしまうはずだ。
 アイドルが最初に求められるのは、ルックスとプロポーション。昔なら巨乳であれば、外見はちょっと落ちてもアイドルとして成立したが、今やちょっとかわいくて、胸の大きい子なんてそれこそ星の数ほどいて、「性格がいい」とか、「人当たりが良くて頑張り屋」なんてのも当然になってきた。それより先の、特別な個性や肩書きが必要とされているが、今やそれがあるのも当たり前。さらに、そこへプラスアルファが求められている。“かわいくて、プロポーションも良くて、性格も良くて、個性もある”。この時点で、1人の女性としては完璧過ぎるほど完璧なのに、それよりもっと上を求められるなんて、過酷な仕事だと思う。
 ここもプロレスラーに置き換えることができる。今やドがつくほどのインディーでも、高度な空中殺法が使えたり、難解な技を見せる選手が多い。スピーディーな動き、コミカルなマイクアピール、一般人とは一目で違うと分かる肉体美…。昔ならメジャーしか持ち得ないとされていた能力を、今では普通に地方のインディー選手が持っていたりする。そんな状況だから、特にメジャーと呼ばれる団体の選手はそれ以上のものを求められてしまい、困惑しているのが現状だろう。
 アイドルもプロレスラーも行きすぎてしまった部分は同じで、問題点も同じだ(まあ、プロレス界の方がファン離れが進んでいる分、シビアな時代だろうが)。そして、僕なりに出てくる答えも同じだったりする。
 それは、昔の価値観で考えること。昔のアイドルを考えてみると、決してかわいくなかったり、プロポーションも良くなかったり、妙な個性もなく、性格だってきつかった。しかし、それでもアイドルになりえたのは、そこに圧倒的な存在感、言い換えるならばスター性があったからだ。
 プロレスラーにもそれは言えることで、決して試合運びがうまいわけでもなく、高度な技を使っていたわけでもないのに、今以上の人気があったのは、レスラーたちに存在感があって、1つ1つの動きに説得力があったからだ(ある意味、レスラーの場合は、体の大きさもそこに加える必要があるかもしれない)。
 アイドル界も90年代後半あたりに人気を博した安室奈美恵やモーニング娘。以降、絶対的なアイドルが生まれていない(アイドルと女優の境目がハッキリしているのも原因だが)。プロレス界も三銃士&四天王以降、絶対的なエースが生まれていない。アイドル業界がなくなる可能性なんてないだけに、そこまで問題視する必要はないが、プロレス界にとってみれば、早急に考えなければいけないことだろう。問題点が複雑化しているが、そこで原点に戻るのは決して間違っていない。シンプルなレスラー、シンプルな技、そして、シンプルな戦い。そんなプロレスを試してみる価値はあると思う。




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