第68回 続・レスラーとファンの明確すぎるズレ

 今回も選手たちと観客の間にあるズレについて書いてみたい。
 先週書いた佐々木健介vs齋藤彰俊戦が見るからに分かるぐらいのズレ方をしていたとするならば、秋山準vs森嶋猛戦は「そこまでひどいズレ方はしていないが、だからこそ気になる」というのが僕が感じたニュアンスだ。
 あくまでも秋山を主語にして考えてみよう。「秋山に対する“GHCヘビー級王座を取り返して欲しい”という期待感が頂点に達したタイミングで、前王者の森嶋を破り、いよいよベルト奪還に向けて準備が整った」というのが、この試合の結果が生んだ意味なんだろうし、秋山自身の言葉を見ても、そういう感情が見て取れる。
 だが、現実的にそういう試合になりえていたのかというと、微妙に観客の意識はズレているんじゃないだろうか。少なくとも、挑戦者決定戦的な意味合いで組まれたバイソン・スミス&齋藤彰俊vs秋山準&力皇猛のGHCタッグ選手権試合で、秋山は彰俊に敗れており、シングル王座のタイトル戦線からは一歩後退したはずだ。しかし、秋山は自らのアピールによって、挑戦者決定戦への出場権利を手にし、森嶋を破ったことで、次期挑戦者となっている。でも、それは表面的に権利を得ただけで、ファンからすると、「なんで負けたばっかりなのに、挑戦できちゃうの?」という疑問を感じずにはいられない。
 秋山本人は「今は調子がいい」なんて言葉を残しているし、「これが最後のチャンスになる」というぐらいの決意を持って、この試合に臨もうとしている。しかし、秋山がいくらそういう決意を持とうとも、これまでの経緯の中で引っかかりを感じてしまう観客の期待感はどこか盛り上がりきれない。
 これから実際に挑戦するまでの間で、どこまで盛り上げきれるかが秋山の課題でもある。だからこそ中西学の挑発を受けて、新日本の1・4東京ドーム大会に参戦することを決めたのだろう。
 ここ数年の秋山は、様々な言動を残しながら、どこか感情移入しきれない中途半端な立ち位置になってしまっている。刺激的な発言をしても試合内容が伴わなかったり、秋山自身が納得いく試合をしてたとしても、ファンが満足いく試合ではないこともあった。
 このズレは秋山がGHCヘビー級王座を巻いていた2年前にも生じていたと思う。“絶対王者”小橋建太が作り上げた価値観を、秋山が破壊してくれるんじゃないかと期待したファンも多かったはず。しかし、ベルトを奪取した田上明戦、そして、鈴木みのるや井上雅央との防衛戦、ベルトを明け渡してしまった丸藤正道戦などで秋山は新しい世界を作ることができなかった。突き抜けるような名勝負にはならなかったし、ビンタやジャンピングニーに固執してしまっているイメージが残っている。振り返れば、意味のある試合だったとも思うが、それがファンに届くことはなかった。
 さらに、もっと遡れば、2004年7月10日の東京ドーム大会に行き着く。小橋の防衛ロードをストップし、新しい時代を切り開くと期待されていた秋山は、小橋に敗れてしまった。ある意味、この試合から秋山のちぐはぐさは生まれているんじゃないかと思う。
 しかし、これがすべてマイナスになるのかと言ったらそうとは言い切れない。この一見回り道のように見える行動も、結果的にベルトを再び腰に巻き、新しいなにかを生み出せれば、いい意味での“溜め”になるはず。大きな流れとして見れば、ズレがあったからこそ、ファンの熱狂を生むなんてことにもできるはずだ。それは、秋山の行動次第なのだろう。
 金丸義信&鈴木鼓太郎vsKENTA&石森太二にもズレは生じていた。しかし、これはほんのわずかな“ヒールファイト”というズレであって、そこがあったからこそ熱が生まれたのだと思う。「あんなのNOAHじゃない」「ああいう戦いを待っていた」「凶器攻撃や乱入なんてプロレスにあってはならない」賛否両論巻き起こっているが、そういう意見の振り幅をすべて許容できるのがプロレスの魅力のはず。KENTAと鼓太郎は試合前も、そして現在も舌戦を展開しているが、個人的にはもっと踏み込んだものに、それこそイデオロギー闘争ぐらいにまで昇華してもらいたい。今は「生理的に嫌い」と言い合ってるレベルだが、それが思想や哲学にまで高まっていくことができれば、もっと熱を生み出せるのではないだろうか。
 NOAHの地上波テレビ中継が終わると一部報道で取りざたされている(自分なりに感じたことは来週書きたい)。僕は現場取材をほとんどしていないので、その真偽は確かめようもないが、そのぐらいプロレスという分野が窮地に立たされていることだけは間違いない。こんな時こそ、僕と同世代のレスラーたち…森嶋や丸藤、KENTA、鼓太郎などの選手たちが、これまでは言えなかったような心の叫びをファンに発信し、自分の主義・主張をアピールして欲しい。嘘くさい言葉や作り込まれたコメントではなく、心の底から沸き立つような思いを。




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