第69回 アイドル業界から学ぶ仕掛けの早さ

 アイドル業界にも逆風が吹いている。かつては時代を担うようなアイドルが存在し、カリスマ性のある一部の女の子たちがファンの歓声を集めてきた。しかし、今やアイドル過多の時代。突出したコが存在せず、逆に沢山のアイドルたちがうごめいていて、よく言えば群雄割拠、悪く言えばドングリの背比べという状況だ。
 その中で、中心的な立場に置かれているのは、『AKB48』と『アイドリング!!!』だ。2つのグループができた経緯やメンバー構成、目指している位置など、置かれている立場はまったく違うが、ビジネスとしては成立しているし、今後の見通しも決して暗くない。しかし、この2組がメンバーを選抜し、『AKBアイドリング!!!』というユニットを発足させることになった。
 当然両方のファンからは賛否両論巻き起こっている。しかし、アイドルにとっては厳しいこの時代に、なにかしなければいけないという思いからこの企画はスタートしているのだ。紅白歌合戦にアイドルが常に出場していたが、今年は選考から漏れてしまった。このままではダメだ、という危機感がこのユニットを生み出したのだ。
 これを聞いて、プロレスファンはどう思うだろう?興味のない業界のこと、と思う人が多いかもしれない。しかし、危機がやってくる前に、早い仕掛けをしているという点を見れば、プロレス界は圧倒的にアイドル業界と比べて負けているのだ。
 一部で報道されている日本テレビのプロレス中継撤退問題。仮にこれが真実だとして、来年に新日本とNOAHの全面対抗戦が実現したとしたら、どうなるのか?「そんなにNOAHって苦しいんだ」「どうせ新日本に負けて、飲み込まれてしまうのだろう」なんてネガティブな反応が起こってしまう。それは少なからず会場の熱狂には水を差してしまうはずだ。
 しかし、今年の夏場にこの対抗戦が行われていたのなら、反応は違ってくる。苦しいNOAHなんてイメージはこれっぽっちもないし、水を差すような悪い流れもない。そんな風に対抗戦が実現していたのなら、プロレス界には追い風が吹き、今回のような中継徹底問題も起こらなかったのかもしれないのだ。
 悪くなってからではなく、悪くなる前だからこそ新しい計画を考え、早め早めに仕掛けていく。これはそれこそマスコミにも当てはまる話だが、プロレス界にはそういう姿勢が決定的に欠けているんじゃないかと思う。
 今の世の中を見渡せば、放送権料を年間1億円(一部報道によれば)もらい続けるなんて不可能だと分かる。いくらプロレス中継の歴史があったとしても、それは順調な時にこそ意味のある言葉で、不況になったら歴史なんて何のプラスにもならない。この時代、テレビ局側のビジネスとして考えれば、1億円を掛ける以上、1億円の収入がなければやる意味がないのだ。そのためには、番組にスポンサーが付かなければならないし、視聴率はもちろん、プロレスという分野自体のイメージを上げなければ成り立たない。そして、そういう様々な問題点を解消すべきなのは、これからではなく、これまでだったはずなのだ。
 現実的にどうなっていくのかは現時点ではなんとも言えない。しかし、テレビ中継が続こうとも、終わろうとも、ファンをいい意味で裏切るような仕掛けを考えなければならないだろう。
 最近のNOAHは安定感や安心感はあっても、期待感は継続できなかったし、刺激はほとんどなかったと思う。プロレスが根本的に持っているべき魅力は刺激や闘いのはずなのに、それがあってこその安定感なのに…。団体としての一体感や試合を通しての面白さ、楽しさはもういい。選手自身が居心地よく思うのではなく、逃げ出したくなるぐらいの刺激や興奮の火が再びNOAHマットに灯ってほしい。




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