第72回 アイドルインタビュアー企画を始めて思ったこと

 数年前、僕よりも後に入ったモバイル系記者に「モチベーションを保つためには、インタビューをやらせてもらった方がいい」と話したことがある。「なに他媒体の記者に先輩面してるんだ!」とおしかりを受けるかもしれないが、僕自身、試合速報や会見記事の製作に明け暮れていた頃、自分のモチベーションを上げてくれたのがインタビューだったのだ。
 ユーザーから見ると、一般的な職種よりも刺激的なプロレス記者という仕事はやり甲斐があるように映るかもしれない。ただ、実際にところ、半年〜1年ぐらいモバイル系の記者をやっていると、それがルーチンワークになってきてしまう。目から入ったものを特に意識せず文章に落とす。そんな繰り返しはどんなにプロレスが好きだったとしても、精神的にきつい。そこで僕が気持ちを切り替えるのに役立ったのが、インタビューだったのだ。質問を考え、相手にぶつけ、その反応を受けて、さらに次の展開を考える。人見知りな僕でも、インタビューのそういう緊張感が徐々に好きになっていった。
 今はプロレス界だけにドップリ浸かるわけにはいかない苦しい立場だが、それでも僕がいまだにライターを続けられているのは、インタビューを好きになったからだと思う。それは、自分の精神的な部分においても、取材する技術的な部分においても言える。
 そんな僕が現在『スコラ』誌上で担当しているのが、インタビュアー育成企画。あるアイドルに様々な人を取材させ、一人前のインタビュアーにしようという内容だ。(「だいたいお前が一人前じゃないだろう!」という突っ込みを入れたくなった方もいると思いますが、アイドル雑誌の企画なので御容赦下さい)
 自分でアイデアを練り、最初から作ってきた企画なので、相手選び、取材前の打ち合わせ、インタビュー時のフォロー、テープ起こし、原稿作りなどにも携わっている。こんな風にちょっと俯瞰してインタビューという行為を見てみると、改めて再発見できることも多い。
 まずアイドルに教えたのは、事前に質問を考えること。そして、その質問の流れを意識することだ。「そんなヤツいるのか?」と驚かれるかもしれないが、インタビュー(短時間・長時間関係なく)はもちろんのこと、会見を前にして質問を考えていない記者もいる。そうなると出たとこ勝負になるわけだが、そんな取材がうまくいくわけがない。極端な言い方をすれば「こんなことを言わせよう」という結論まで考えた上で話を聞かなければならないのだ。
 だから、今回の企画では、毎回浅くてもいいからテーマを設定し、質問を思いつく限り考えて、そこから取捨選択し、相手が話しやすく、こちらも質問しやすい流れを考える、という部分まで打ち合わせするようにしている。変な話、稚拙なレベルだろうとここまで考えていて、さらに芸能人が必ず持っているであろう外向性があれば、すでにインタビュアーとして成立するのだ。
 そして、もう一歩進んで取り組んでいるのが、“読者の気持ちを考える”こと。これも言われてみれば当然なのだが、プロレス界では案外置き去りにされている場合が多い。
 Gスピリッツのインタビューにもそれぞれ個性があるが、基本的な方針として、インタビュアーの個人的な話を極力なくす方向で編集作業がされている。「この記者はこんなにプロレスが好きなんだ」と思われるのは悪いことではないが、「この記者はこんなに選手と仲が良いんだ」と思われるとちょっと違ってくる。最終的に「この記者は選手と仲が良いことを妙に主張したがる」と思われてしまったら、記者失格と言ってもいいだろう。
 記者と選手に信頼関係があればいいインタビューになるはずだが、それが過剰になるとなあなあの原稿になり、ヘタをすれば自己満足になりかねない。それを誌面から感じると残念な気分になる(もちろん読者の皆さんがGスピリッツを読んでそう感じないとは言い切れないが…) 。そこに読者の気持ちがにないからだ。
 今回のスコラでの企画は、インタビュアー自体がアイドル単体として成立しているので、プロレス雑誌の場合とは異なるが(プロレス雑誌なら、インタビュアーの意見や個性が全面に出ていると、やはり嫌な気分になる)、それでも“読者の気持ち”を考えることが重要になってくる。しかも“取材対象のファンの気持ち”“スコラ読者の気持ち”“インタビュアー(アイドル)のファンの気持ち”という3つを意識しなければならない。
「普段はスコラなんて買わないけど、その人のインタビューがあるんだったら買おう」というファンは少なからずいる。まずはその人たちから見て、面白いと思える内容にしなければならない。そのためにはプロフィールや主義主張を知っておかなければならないし、最近受けたインタビュー記事(ネットも含む)などを探して、内容を被らないように意識することも必要だ。「なんだまたこの話か」となったら、興味を惹くことは出来ないからだ。
 さらに、普段スコラを購読している読者から見ても面白いと思える記事であることも重要だ。まったく興味がない人が読んで、そこに出ている人たちに注目するようにならなければ、そもそもインタビューをする意味もないはず。この考えも欠かすことはできない。
 普通ならここまでで終わりなのだが、今回の企画はさらに、インタビュアーであるアイドルのファンの気持ちも考えなければならない。インタビュアーとしてあまりに黒子として徹しすぎてしまうと、“アイドル企画”という根幹を崩しかねない。対象よりもインタビュアーの方が有名ということもあるわけだから、バランス感覚が必要とされる。
 こんな部分まで「意識しろ」と言われたアイドルとすれば、ハードルがかなり高いと思うが、現時点では予想以上に頑張ってくれていると思う。そして、偉そうに先生ぶっている僕も、改めてインタビューの難しさや面白さを実感できるようになってきた。
 プロレス雑誌は基本的に試合記事が中心になるが、ネット等で即日試合速報が載る今、もっとも重要なのはインタビューじゃないだろうか。だから、マスコミ側もそのクオリティを上げていかなければならないし、読者としても内容に対してもっと「面白い」「つまらない」なんていう声を上げていってほしい。こんな時代に、何でもかんでも絶賛するような内容の提灯記事を載せても仕方ないし、逆に厳しく問い詰めて、シビアな文章にしていく必要がある。そして、選手も今まで以上にシュートな気持ちを話していくべきだ。
 今回のスコラの企画で、いつかはプロレスラーを呼びたいと思っている。しかし、今のプロレス界で、他の編集者を納得させるような人材は本当に少ない。現役だと武藤、蝶野、三沢、小橋、健介ぐらいなもので、高山や鈴木(みのる)がギリギリのライン。今、トップに立っている棚橋、中邑、丸藤、KENTA、諏訪魔たちでは強引にねじ込まない限りOKがでないだろう(まあ、個人的にはこの人に出てもらいたいという考えはまとまっているのだが)。リング上のファイトはもちろんのこと、プロレス雑誌をはみ出るぐらいの言動をして、他の分野にまで届くような言葉を持ったレスラーを目指して欲しい。




<<Back
[終了]村上謙三久の『ファン上がり記者』トップ
(C)辰巳出版