第33回 アントニオ猪木

 昨日発売となった『Gスピリッツvol.6』を読んでいただけただろうか?できあがった本を改めて読んでみると、これまでのバックナンバーよりもさらにディープな内容になっていると思う。
 アントニオ猪木を扱うとなると、期待する声が起こると同時に、不信感を感じる人も少なくない。今回の序文でも「最近のファンからすれば、楽しみにしていた大会をグチャグチャにし、自分たちの大好きなプロレスに文句ばかり言っている人という印象しかないかもしれない」と書かれていたが、これが10代・20代のファンの素直な感覚だろう。今年で30歳になる僕も、猪木の試合を生で観た経験はたった2回だけ。しかも、それは90年代後半の引退カウントダウンでのことなので、全盛期からは遠く離れている。類い希な緊張感と佇まいは感じられたが、僕の中で引退間際の選手というイメージをぬぐい去ることは出来なかった。
 新日本を平行して見ていたとはいえ、あくまでも僕が中心に見ていたのは四天王時代の全日本。『闘魂』だとか『キング・オブ・スポーツ』なんていう猪木の世界観とは遠いところでプロレスを見てきただけに、悪い部分だけを伝え聞いてきたのかもしれない。
 だからこそ、余計に今号の制作過程で新しい事実に直面し、猪木の印象を大きく変えられたような気がする。若い頃の猪木がどんな戦いを繰り広げ、何を目指していたのか。漠然と専門誌などで聞きかじった知識しかなかった僕には、猪木の考えに大きなインパクトを感じた。
 食わず嫌いの人も多いだろうし、いろいろな話を聞いたからといって全てを認める必要もないけれど、アントニオ猪木という存在がプロレス界に大きな影響を与え、その後の発展に繋がったことは間違いない。今回の特集はぜひ全日本系ファンにこそ読んで欲しいと思う。
 今号に限らず、Gスピリッツへの意見としてよく耳にするのは「懐古主義じゃないか?」というものだ。ただ、僕は最近思うに、Gスピリッツは「昔は良かったんだけどなぁ…」なんてネガティブな意味ではなく「昔は良かった!」と前向きに言い切るような感じで作られてきている。だからこそ、学ぶ部分もあるし、今後のプロレスにも繋がってきるんじゃないだろうか。前回のコラムで書いた最近流行の『バック・トゥ・ザ・○○』に対するGスピリッツなりの答えを提示できていると思うし、ここから一歩踏み出せるものもあると思う。
 今のプロレスしか知らない人、最近のプロレスに疑問を感じている人、プロレスに魅力を感じられなかった人、どんな形のファンにも楽しんでもられる形になってきたと個人的には感じている。今回はアントニオ猪木という人物がテーマになったが、今後はもっと平成寄りの題材になることもあるだろうし、インパクトがある事件が起きれば、リアルタイムの出来事を扱うこともあろうだろう。安易に昔のことばかり取り上げようとしているのではなくて、作り手として面白く、なおかつファンにも興味を持ってもらえる事柄ならどんなことでもやっていこうというのがGスピリッツの取材方針なので、懐疑的な読者もそのあたりは理解してもらいたい。




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