第42回 KENTAが積み重ねてきた戦い

 現在、発売中の『Gスピリッツvol.7』でKENTAのクローズアップ記事を担当した。以前にこのコラムでも書いたが、週刊ゴングが休刊となり、モバイルゴングも閉鎖された後、しばらくプロレスから離れていた僕が、Gスピリッツに携わるようになり、久しぶりにNOAHの大会を取材した時に、一番インパクトを感じたのがKENTAの存在感だった。その時点では小橋建太はまだ復帰していなかったが、小橋の不在を真摯に受け止め、逆に自らの存在感でNOAHを盛り上げようという姿勢を感じ、その覚悟と殺気の変化から「NOAHのエースはKENTA」という感覚を覚えた。
 それをヒントに僕がずっとやりたいと思っていた企画が『丸藤正道&KENTAの今』だった。最近は1シリーズに1回ぐらいのペースで再びタッグを組むようになってきているし、逆に戦うこともあるが、そこに情念が立ちこめることも、因縁が生まれることもなく、普通に流されてしまっている。ただ、2人の間には特別な感情があるのは紛れもない事実。丸藤から見たKENTA、KENTAから見た丸藤、そして、丸藤が見た自分自身、KENTAが見た自分自身の4つをうまく切り取れば、1つの企画として成立すると考えていたのだ。出会った頃の印象、タッグを組んでいた頃の想い、そして、今現在はお互いをどう評価しているのか。単純なようで面白いテーマだ。
 ただ、ある程度のページ数が必要となってしまうし、特集などが別にあるとそれが優先されるため、なかなか具体化しないまま時間が過ぎてしまっていた。7号目にしてやっとKENTA個人という形として企画を実現することができたが、丸藤や杉浦からの証言も加え、当初のテーマを活かす形で記事を制作できたのではないかと思う。
 本文ではあまり触れることができなかったが、杉浦もKENTAについて語るには外せない人間だ。最近のKENTAについて聞いたところ、「胸毛が増えてセクシーになりましたね(笑)」と冗談を連呼していたが、「僕はヘビーでやってますけど、シングルもやりたいですよ」という本音も漏らしていた。杉浦もシングルプレイヤーとして様々なタイプの選手と戦い、好勝負を残してきているが、一番個性を発揮できたのはKENTAとの戦いではないかと思う。文中では丸藤とのシングル戦を強調してしまったが、KENTAvs杉浦もまた見てみたいカードだ。
 今回の企画は『感情』をキーワードに、基本的にはKENTAの試合を見たことのない昭和のプロレスファンに向けての記事という形になっているが、またいつか別の切り口でKENTAを取り上げてみたいと思っている。丸藤たちの他にも師匠である小橋建太や本田多聞、後輩の鈴木鼓太郎、かつてのライバルであるSUWA、緊張関係が続く秋山準、ソウルメイトの柴田勝頼、タッグパートナーの石森太二たちの証言も取り入れたかった。それはまた別の機会に企画としてやってみたい(特にSUWAとの名勝負には触れたかった)。
 先日、横浜大会で行われた小橋&KENTAvs佐々木健介&中嶋勝彦戦を取材したが、そこでの戦いを見ていて、またKENTAの立ち位置が一段高くなったように感じた。
 中嶋との抗争が勃発しているが、冷静になって考えると、この戦いはKENTAにとってあまりプラスにならない。中嶋は世界ジュニア王座やアジアタッグ王座を戴冠したことはあるが、ヘビー級のタイトルとなるとまだまだ手が届かない印象がある。元GHCタッグ王者からの勝利はあるが、それはあくまでもパートナーが絶対的な強さを持つ健介だからこそ。例えば、中嶋が個人でGHCヘビー級王座に挑戦したり、健介以外のパートナーでGHCタッグ王座に挑戦するとなれば、まだ違和感を感じてしまう。
 反対にKENTAはGHC王座に何度も挑戦し、奪取まであと一歩のところまで迫っている。純粋に格だけを見比べた場合、中嶋がKENTAに負けてもリスクはないが、反対にKENTAが負けるようなことがあれば、失うものは大きい。ただ、だからこそ、この抗争において、妙に上から目線にならず、真っ向から中嶋と戦うことを選択したKENTAは凄いと思うのだ。
 思えば、KENTAが今のようなスタイルに代わり、先輩だろうが構わず突っかかっていった頃、誰もKENTAが相手選手に勝つとは思っていなかった。だから、最初はともかく先輩に一矢報いることができれば観客も満足していたし、インパクトも残せていた。しかし、KENTAはそこまでで終わることなく、何度もヘビー級を相手に戦いを仕掛け続ける。団体内だけでなく、高山善廣や鈴木みのる、天龍源一郎たちを相手にしても蹴りをぶち込み、叩きのめされてきた。ジュニア戦線で活躍しながら、本当に何度も何度も上の人間と真っ向勝負を繰り広げていくにつれ、インパクトを残すだけでなく、「もしかすると勝ってしまうんじゃないか?」というムードを感じさせるようになる。それがファンの期待感を生むようになり、KENTA自身を押し上げることに繋がっていく。
 ともかく勝てば全てを覆すことができるが、KENTAは負けながらそれを成し遂げていったのだ。ジュニアという位置で、直接的な結果を残せず、それでも、小手先のテクニックではなくて、体当たりでヘビー級との対等な関係を築き上げたのは、ひとえに日々の積み重ね。ある意味、今後の中嶋がしなければならないことを、KENTAはやってきたとも言える。
 ここからは勝手な憶測になってしまうが、健介との対戦をアピールしているKENTAは、中嶋との抗争から健介へと続く道を開こうとしているのではないだろうか。中嶋と何度も戦い、ことごとく返り討ちにすることで、「もう健介が出てくるしかない」という待望論を作ろうとしているように見える。もちろん、今の中嶋と戦い続けることはハイリスクだ。敗北を喫する可能性だってかなり高い。ただ、そこから生まれてくる熱は必ずKENTA自身へと跳ね返ってくるはずだ。
 NOAH全体を見ると、ジュニア戦線を除けばあまり大きな評価と活躍を残せてないようにも感じる最近のKENTAだが、今は太い根を大地に張っている時期なのだろう。即効性のある活躍ではなく、長期的な戦いを切り抜けた時、また新しいKENTA像が広がっていくだろう。その時はまたインタビューをしてみたい。




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