第47回 森嶋vs力皇に満ちていたもの、足りなかったもの

 すでにテレビ中継でも放送されたが、森嶋猛vs力皇猛戦を見て、読者の皆さんはどう感じただろうか?
 試合内容だけを見るならば、満点とは言えないまでも、森嶋と力皇が今見せられる精一杯のファイトを披露できたという意味では、合格点は与えられると思う。杉浦貴との初防衛戦に比べると、森嶋自身も手応えを感じているように見えた。
 しかし、何かが物足りなかったのは確かだ。この試合には何が満ちていて、同時に何が足りなかったのか。それについて考えてみたい。
 三沢光晴を破りGHCヘビー級王者となる前、森嶋の周りには“なにかやってくれるんじゃないか?”という期待感が充満していた。ROH王者として海外でベルトを防衛していくにつれて、以前感じられた気持ちが弱いイメージは払拭され、ふてぶてしさを身にまとうようになった。“わがまま”という言い方が適切かどうかは分からないが、どんな逆風が吹こうとも揺るがないような存在感が如実に見て取れるようになったのが、一番の変化だったと思う。
 だが、GHCのベルトを戴冠したことで、ある意味、それまでの積み重ねがリセットされてしまった気がする。今回の力皇戦の試合後にもベルトを巻いていいのかファンに確認する場面があったが、本当は「俺の戦いに文句を言うな」というぐらいの強烈な意志が欲しいところだ。
 森嶋に対してはファンからも関係者からも、「技を受けすぎだ」「怪物性が足りない」など様々な指摘が出ているが、「俺はやりたいようにやらせてもらう」と無理矢理でも言い張る気概を再び持って欲しい。王者ならばファンたちよりも前を走らなくてはならない。必要なのは、ファンや関係者の反応を見るために後ろを気にしたり、逆に追い抜いて前を進むようになったファンの声に耳を傾けて自分の進むべき方向を思慮することではなく、圧倒的なスピードでぶっちぎって、「お前らの考えは遅れているんだよ」とファンを笑い飛ばすぐらいの気持ちの強さだ。
 ROH王者時代には確かにそういう雰囲気が感じられた。逆に言うと、今回の防衛戦で森嶋はその貯金を全て使い切り、また0に戻ってしまったと言ってもいいかもしれない。その状態で佐々木健介と戦うことはかなりリスキーだけれど、ここを乗り切れば、逆に大きなジャンプアップが期待できるだろう。
 今回の森嶋vs力皇戦には沢山の気持ちがこもっていたが、同時に気持ちの爆発が足りなかったように感じた。森嶋の勝利者インタビューの後に、WILD2の入場テーマが流れていたのに気が付いた人はいるだろうか?心憎い演出だったが、それによって心地よい余韻を感じた人はそれほど多くないはずだ。そこにこの試合に足りなかったものの答えがある。
 かつてのパートナー対決、それもタイトルマッチ。もっと期待感や興奮が巻き起こってもいい試合だった。WILD2というタッグチームは結果と内容だけを見れば、名タッグチームと評価されてもいい存在だ。デビュー5年目の森嶋とデビュー3年目の力皇とのタッグが、ノーフィアーからベルトを奪い、ベイダー&スコーピオ組、中西学&吉江豊組、秋山準&斎藤彰俊組、三沢光晴&佐野巧真組を相手に防衛に成功。当時はそれだけの勢いもあったし、圧倒的な強さも感じられた。その2人が長い時間を経て、武道館のメインで激突する。そこには歴史があるし、テーマや意義もあった。
 しかし、1つだけ足りないものがあった。それはファンの思い入れ。WILD2は時代を動かしたコンビだったが、ファンの気持ちを背負って、大きなうねりを起こし、思い入れを持たせるという意味では、なにかが欠けていたのだ。それは結果や実績を得たために仕方なく欠けてしまったという部分は少なからずあるし、曖昧なままコンビを解消してしまったために、区切りをつけることができなかったことも大きい。だから、決して2人が悪いというわけではない。ただ、超世代軍やバーニングといった先輩たちのユニットに比べると、やはりWILD2はファンとの共通意識・共犯意識を生み出すことができなかったのだ。
 もし、この2人のコンビにファンがもっと大きな思い入れを持っていたら? まったく同じ試合内容であっても、会場の雰囲気や試合を見た後の感想はかなり違ったものになっていたのではないだろうか。2人はタイトルマッチという舞台で、自分たちの過去と改めて向き合うことを強いられたのかもしれない。
 試合後、僕は森嶋のマイクアピールではなく、力皇のコメントを担当していた。力皇は若手2人の肩を借りなければ歩けないほどのダメージを負い、一度控え室に戻った後、医務室に向かう際も1人で歩くのがままならない状態だった。それでも記者たちの前で「清々しい気持ちでいる」と語っている。森嶋も力皇を称える言葉を残しているが、2人の間にはちゃんと思い入れがあったのだ。
 だが、そこからファンを巻き込むような感情の爆発には繋がらなかった。2人の気持ちは内に内にと向かってしまい、相手にぶつけるだけで完結してしまって、ファンには届かなかったのだ。
 森嶋と力皇は技をぶつけ合いながらお互いの強さを認め合ったが、そこで終わってしまったように感じた。小橋と秋山が東京ドームの舞台で戦ったあの日のことを思い出して欲しい。彼らはお互いの強さを認め合うなんて次元ではなく、「こいつだったらここまでやっても大丈夫だろう」「この人がここまでやるなら、俺はもっとやってやる」という相乗効果を生み出し、大会場を熱狂させた。そういう意味では、森嶋と力皇の戦いはまだ武道館全体を揺るがすレベルにはなってなかったのだと思う。これが後楽園ホールだったら、2000人レベルの会場にはもったいない名勝負と言われていたかもしれない。
 ただ、森嶋と力皇の戦いはまだまだ始まったばかりだ。今回のコラムでは過去に向けてのベクトルばかりを強調してしまっているが、それも今回の戦いで全てリセットされた。今後は感傷に浸るのではなく、戦いのベクトルを未来に向けて、今回以上の名勝負を生み出していって欲しい。
 最後に。これは完全に個人的な意見となるのだけれど、森嶋と力皇のタッグが今こそ見たいと思った。WILD2として組んでいた末期、森嶋も力皇も2人をセットとして見られることを極端に嫌がっていた。WILD2はチームとしての個性はあっても、個人の個性を発揮することはできないでいたから、それは当然かもしれない。しかし、今なら、全然違う考え方を2人は持てるのではないだろうか?王者の重責を経験し、一歩引いたり、全体を見渡すことができるようになったが、それがシングルプレイヤーとしては悪い方に出てしまっている。しかし、2人のタッグチームなら、それはプラスに変化し、かつての自分たちのイメージを一新させることができるんじゃないかと思う。現在、共に正パートナーがいるだけに、実現する可能性はほとんどないが、もし団体対抗戦や世代闘争などでタッグを組む必然性が生まれた時、WILD2は凄まじいばかりの暴れぷりを見せてくれるだろう。




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