第32回 田上明という生き方

 四天王の中で一人格落ちしている人間を挙げるとすれば、インパクト的に考えてどうしても田上明になってしまう。三沢光晴は完璧に頭一つ抜けていたし、川田利明も三沢と対峙することを選んだ時点でステップアップを果たした。最後まで田上&川田組ではなく、川田&田上組だったのも事実だ。
 となると、小橋健太(現・建太)はどうか。当初は明らかに田上の方が実力的にも実績的にも上で、ライバルとも言えないぐらい差があった。だが、小橋は確実に結果を残し、田上とのシングルでも時間切れ引き分けが増え、最終的には三冠王座を直接奪い取るという結果になる。
 僕がアンチ三沢だったことはこのコラムの開始直後に書いたが、じゃあ、誰が一番好きだったかと言うと、時期やタイミングでかなり変わってきている。やはり三沢にぶつかっていく川田に思い入れがあるし、毎回完全燃焼していた小橋を応援することも多かった。ただ、トータル的に見ると、一番好きだったのは田上だったかもしれない。
 僕がプロレスを見始めた頃の田上は、ジャンボ鶴田とタッグを組んでおり、ちょうど世界タッグ王座を奪取した時期だった。髪はパーマで表情はふてぶてしく、昔の名残からブーイングを浴びることも多かった。
 そんな田上をなぜ好きになったかと言うと、初観戦のメインが三沢vs田上戦(三冠戦)だったことが大きい。プロレスを好きになった時点からアンチ三沢だった僕は、その試合でも必死に田上を応援した。結果はもちろん三沢の勝利に終わったが、田上というレスラーに妙なリアリティを感じられたような気がする。
 田上は共感で人気を呼ぶレスラーではなかったし、弾けるような感情が売りでもなかった。ただ、だからこそ4人の中で独自の存在感を発揮することができたのだろう。
 そんな田上も『田上火山』というイメージができたことで存在感が増してくるようになる。アームボンバーからノド輪落としに必殺技が変わった時は大きな変化はなかったが、ダイナミックボムや投げっ放しジャーマンを使うようになり、さらには断崖ノド輪まで発明。なんとなく目立たない位置でいたことが良い意味で溜めになり、大きな歓声を集めることになる。
 感情や共感はないが、田上はどこまでも素の表情をさらけ出している選手のような気がする。驚いたり動揺したりしても、それをそのまま出すし、飄々としているようで、怒ったり喜んだりすると、それがスーッと観客の胸へ真っ直ぐに入っていく。
 ウィリアムスのバックドロップで怪我を負ったと聞き、「まさか首を痛めたのか?」と心配したら実は足を負傷してたり、オブライト相手にいきなりドラゴンスクリューを浴びせて後楽園を揺るがせたりと、良くも悪くも意外性を発揮する。そんな部分も田上の魅力だろう。
 個人的には僕が唯一食事をおごってもらったことがあるレスラーが田上だ。以前、地方巡業に帯同してた時、12時を回った頃に1人で遅い夕食としてラーメンを食べていると、知り合いと飲みのシメとしてラーメン屋に入ってきた田上とバッタリ遭遇した。軽い冗談を飛ばしていた田上だったが、お会計となった時に、さも当然のように僕の分まで払うと、「いつもお世話になってるからな。カ、カ、カ」と笑いながら颯爽と帰って行ったのを覚えている。
 今やNOAHの中でレスラーからもファンからも一番愛されているのが田上かもしれない。もう一花も二花も咲かせて欲しいが、たぶん本人に直接言ったら「俺はもうそんなにやりたくないよ。カ、カ、カ」と苦笑するに違いない。




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[終了]オレだけの四天王プロレストップ
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