第33回 五番目の男

 秋山準――。四天王時代を語るには必要な人物だ。(ちなみに当時、準の字には“点”が付いていましたが、携帯サイトには表示できないので、現在のリングネームのまま書いていきます。あらかじめご了承ください)
 秋山は『超新星』と呼ばれていたが、改めて振り返ってみると、デビュー直後からとんでもない活躍をしている。なんせデビュー3ヵ月で日本武道館でメインイベントを張っているのだ。ジャンボ鶴田の欠場により、急遽田上明のパートナーとして『92’世界最強タッグ決定リーグ戦』に出場。最終戦となった日本武道館大会では三沢光晴&川田利明組と対戦し、20分を超す熱戦を繰り広げている。その時点で小橋健太ですら武道館のメインは1度しか経験していなかった。新日本の中邑真輔や全日本の諏訪魔などデビューしてからすぐに活躍し、大きな脚光を浴びている選手が最近もいるが、秋山は次元が違った。あの頃、誰もが秋山が未来の全日本を担うエースになるのだと迷いなく断言できただろう。
 だが、今になって改めて思い返してみると、秋山の立場はとても難しいものだったと思う。あすなろ戦士と呼ばれる全日本若手勢の中を見ると、先輩は井上雅央、浅子覚、泉田純の3人。秋山の後には大森隆男や本田多聞、志賀賢太郎、マウナケア・モスマンと続く。デビューの順番や秋山の本心ではなく、立場的に彼らを引っ張り上げる位置にならなくてはならなかった。
 さらに、上には三沢、川田、田上、小橋の四天王がいた。スタン・ハンセン、テリー・ゴディ、スティーブ・ウィリアムス、ダニー・スパイビー、ジョニー・エース、カンナムエキスプレス、アブドーラ・ザ・ブッチャー、etc。遠い存在ではなく、実際に越えなければいけない相手として沢山の外国人選手も控えている。秋山にはじっくりと自信や精神、己のスタイルを作り上げる時間が与えられなかった。激しい戦いを重ねながら、その中で自分を磨いていくしかなかったのだ。
 いきなり四天王の中に放り込まれた秋山を待ちかまえていたのは“苦闘”だった。不甲斐ないファイトをするようなら前座戦線に落とされ、一から積み重ねることもできるだろうが、秋山は“できてしまった”。だから危険な技を食らい、好勝負の末に叩き潰されることが増えていく。それこそ現在のファイトに影響を及ぼすほどのダメージも蓄積されていただろうし、精神的にもギリギリのところで戦っていただろう。言葉にできないような苦労がそこにはあったはずだ。
 いつしか秋山は四天王の中に割って入り、全日本は五強時代に突入する。小橋が抜けた後の超世代軍では三沢とタッグを組み、世界タッグ王座を戴冠。その後は小橋とのバーニングを始動させ、三冠挑戦も果たした。
 一気に駆け上がった秋山には疾走感や躍動感があったが、逆に熟成したからこそうまれる生々しさがなかった。三沢や川田、小橋には自分をオーバーラップさせたり、声をからして応援したくなるような訴えかけるものがあったが、秋山にはそういう感動や感激を揺り動かす部分がどこか欠けていたような気がする。
 もちろんそれは悪い部分ではあるかもしれないが、同時に魅力の1つでもある。秋山自身がそれを意識し、自分の長所としたことがNOAH旗揚げ後の活躍やスターネス結成へとつながっていく。
 全日本プロレスの社長だったジャイアント馬場さんは秋山に英才教育を授けたと言われている。とはいえ、秋山自身は意外と冷静に馬場さんの意見を聞き、自分の中で取捨選択していたらしい。では、馬場さんは頭の中で秋山の将来像をどんな風に描いていたのだろうか?これは完全に個人的な“たら・れば話”になってしまうが、馬場体制の全日本がもう数年続いていたら、秋山はまた違ったスタイルとなり、今とは全く違う活躍の仕方をしていたかもしれない。
 なにかを選ぶということは何かを捨てることだし、何かを失うということは何かを得ることだ。逆に言えば、その仮定通りになっていたら、あの東京ドームで行われた小橋vs秋山戦は実現しなかったかもしれない。1人のレスラーがいれば、そこには団体の選択、ファイトスタイルの選択、技の選択など幾千もの“if”が存在する。そんなことを想像するのもプロレスの楽しみ方の1つなのかもしれない。
 四天王と呼ばれていた4人は、当時、世間なんていう漠然とした存在はもとより、直接交わることの無かった他団体や実際に戦う対戦相手など目に見えないいろんなものと相対していたが、最近はいつか必ず来るであろう引退を意識しながら“どこまでいけるのか?”をテーマにして、自分自身との戦いに集中しているように見える。
 だが、秋山は違う。まだなにか新しいことができるんじゃないか、そんな風に感じてしまうのは僕だけじゃないはずだ。タッグだけでなく、シングル戦線も視野に入れて動き出している秋山が見せるのは“四天王時代を経験したからこそ出せる凄み”のはずだ。それを存分に発揮した時、僕は秋山のファイトに思いっきり自分をオーバーラップできるような気がする。 




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[終了]オレだけの四天王プロレストップ
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