第35回 三沢と川田と当時の僕(25)

 日本武道館での三冠戦直前。流れは川田の方にあった。世界タッグ王座を防衛したことでやっと一息付けたのか、少しずつ表情には余裕が見えた。実際、大会当日に武道館の客席から僕が見た雰囲気も、硬さが感じられなかった記憶がある。
 反対に小橋は世界タッグ戦で右ヒザを負傷。武道館3日前の青森大会では場外で田上のノド輪落としを食らい半失神。タンカ送りにまでなっている。膝の状態は悪化の一途を辿り、当時の報道によると『靱帯部分断裂ならびに半月板損傷』と診断され、ドクターストップまでかかっていた。
 しかし、小橋はそれを力に変えた。入場曲をこの日、『SNIPER』から『GRAND SWORD』に変えたのも小橋の悲壮なる決意の表れだったのかもしれない。入場曲が変わったことで観客は戸惑いを隠せないでいたが、今のこの曲に対する盛り上がりを考えれば、なにか暗示していたのではないかと思う。
 川田は王者としてのプライドからか、あえて小橋の膝を攻めなかった。それは三冠王者としての自覚の表れでもあったが、同時に小橋の力を見誤っていた証拠でもあった。手負いとは言え、いや手負いだからこそ真っ向勝負に出た小橋は、膝の痛みを無視してムーンサルトプレスを敢行。最後は豪快なラリアットで川田を沈め、2度目の三冠戴冠を果たした。
「これまでいろいろありましたけど、これからが始まりだと思います」
 小橋は全日本に新しい時代がやってきたことを宣言した。その言葉を川田はどんな思いで聞いていたのだろう。三沢を超えることで川田も時代を動かそうとしてきた。何度も壁に弾き飛ばされながらも、やっと果たした三沢越え。しかし、それはもう時代を動かすことではなくなっていたのかもしれない。すでに時代は動いてしまっていたのだ。
 小橋が三冠を取ったことで、秋山たち下の世代にも注目が集まることになった。次期挑戦者は秋山に決定。世界タッグ王座を保持している川田は再び沈黙するようになっていた。オブライト&高山組を挑戦者に迎えての防衛戦は高山のヒザ蹴りが急所に入り、荒れ模様となったが、最後は川田が高山を沈めた防衛に成功。小橋と秋山が新時代到来を告げるべく三冠を懸けて対峙した武道館大会でも、川田は馳とタッグで対戦し、直接ピンフォールを奪ったが、ここでもコメントを発しなかった。
 しかし、目まぐるしく移り変わる全日本マットで留まることは許されない。3ヵ月ぶりにあの男が戻ってくることをきっかけにして、全日本のリングには想像だにしない動きが生まれる。夏到来と共に、新しい景色が見えてきた。




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[終了]オレだけの四天王プロレストップ
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