あの子どもたちの感情のない表情は、この作品でしか知ることはできないだろう。一人ではない。何人もの子どもたちが同じ表情となる。丹念に子どもたちを見つめ、追ってゆくことではじめて得られる映像がある。『チョコラ!』の中にはそうした映像がちりばめられている。

小林監督は、感情をあおる映像やナレーションで観る側を誘導したり、分かったつもりになれるような作品作りは決してしない。それはこれまでの作品も同様だった。子どもたちの姿を、公開された映像の裏側から読み取る「想像力」を持つことを求めているように思える。わたしたちは、子どもたちの語る言葉や姿から、子どもたちのことを知ろうと努力するしかない。監督は答えを与えてはくれない。わたしたちは、わたしたち自身の体験を通して、その答えを見つけ出そうとするしかない。見つけ出すことのできない答えであっても。

美しく、忘れることのできない映像もある。
ある子どもが親との話し合いのために実家に帰り、農業を営んでいる庭が映される。左側で丸まって寝ている犬。中央に二人の妹と弟。その間で食事を取っている猫。右側では鶏が首を上げている。それはまるで絵画のようだ。その情景ののち、路上生活をしている少年が甥っ子を前に抱き「撮ってよ」と言う。単純に観ていれば、ただそれだけかもしれない。けれど少年がなぜ甥っ子をカメラの前につれてきて、ネックレスをつけ、カメラにおさめてくれと頼んだのか。少年の気持ちを考えると、たまらない気持ちとなってしまう。


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