そして食事風景の中で、小林監督や撮影の吉田さんと、被写体であるティカの人たちとの関係がはっきり見える言葉があった。
母親に「食前のお祈りをしなさい」と促されて10歳の長女は、おしゃまにお祈りを始める。その中の言葉に「コバ(小林監督)の病気がよくなりますように」とあったのだ。監督自身、翻訳され日本語字幕がつけられたとき、初めてこの少女の祈りの言葉を知ったという。監督はその瞬間衝撃を受けたと語る。「映画を撮ることに頭がいっぱいだった。はたして私は映画の中にいる子どもたちを祈ったであろうか」

小林監督の個人的なこととなってしまうが、数年かけてびわこ学園での生活を撮りつづけている時から既に腎臓を病み、脳梗塞も起こしていた。びわこ学園の重度障がいのある人から「体は大丈夫?」と気遣いを受けたことが、監督にとり大きな力となったと語られていた。そしてケニアでも、同じ想いが10歳の少女から発せられていた。すぐにでも人工透析を始めなければならない情況で、しかも脳梗塞まで患い、それでもケニアの子どもたちを撮るという強い気持ちが、ティカの子どもたち、若いHIV感染者となった母親、そしてその10歳の長女にも通じていた証でもあろう。


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