
視線の先に 第一章
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「そうだな。でも、だめな奴ほど根性とか吐(ぬ)かして自爆する」
「考える頭か」
「人のやることは、結局は、そこに集約されるんじゃないだろうか」
「オヤジも、ちょい、やな奴だね」
「かもしれんが、四十もなかばを過ぎて、それが結論さ」
「オヤジはどうなんだよ。考える頭。
うまく人生をシリーズとしてとらえて、トップでゴールできたか」
笑みを泛べようとした。笑えなかった。呟きが洩れた。
「──凡人なりに」
「まさか、頑張りました、なんて言わないよな」
淑子が博幸を叱った。
私はあえてミラーを覗かなかったが、きっと博幸は薄笑いで応えたことだろう。
じつは、私は、会話を始めてから、なぜかミラーを一瞥することができなくなっていた。
博幸の顔を確かめることができなかった。
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