
視線の先に 第四章
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なにかをしろと強制したことはあっても、博幸と共同作業をするのは、初めてのことかもしれない。
下界であったなら、日中にこんな作業をするのはごめんだが、ここは標高千五百メートル、陽射しは強くとも、日陰にはいればひんやり涼しい。
博幸が作業の手をとめ、声をかけてきた。
「あのね」
「なんだ」
「俺、すごく褒められた。
教官がみんなの前で俺を褒めた。
中村君はバランス感覚がすばらしいって。
力みがないから、なにをさせても巧いって」
我がことのように嬉しい。
もちろん顔がほころぶ。
博幸は私の笑顔に気付いて、幼いときのように満面に笑みを泛べ、けれどすぐに照れ臭そうに笑みを引っ込めた。
私は作業にもどりながら、呟くように言う。
「中村家特設オフロードコースを走ってるんだからな。舗装された場所を走るのなんて、楽勝だろう」
「そうなんだ。滑る気がしない。
ただ、スラロームでステップを接地させてしまって、怒られた」
「調子に乗るなってことだな」
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