視線の先に 第三章

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エアコンをつけっぱなしにして寝ていた。

都下三鷹の賃貸マンションだ。淑子と博幸は野辺山にいる。

今日からしばらく休みだ。

盆休みの前に有給を組み合わせて、私はめずらしく長期間の休みをとった。

セロー250がとどく日である。

前の晩から落ち着かなかった。YSP三鷹というバイクショップまでは、歩いていける距離だ。

私は一週間ほど前に購入したヘルメットのなかに真新しい皮のグローブを抛(ほう)りこみ、焦り気味に外にでた。

蝉の声が姦(かしま)しい。

バイクショップで操作の簡単なレクチャーを受け、キーを受けとった。

オフロードバイクなのにセルボタンに触れるだけでエンジンがかかる。

隔世の感というには大げさだが、妙に感心して頷いている自分がおかしい。

するりと走りだす。

にもかかわらず、微妙な硬さを感じる。

新車ならではの嬉しい硬さだ。

この硬さは距離を重ねるごとにほぐれるように消え去っていき、そのころには私のほうもセローに馴染んで肩から力が抜けているはずだ。

近くのスタンドで満タンにした。

とたんにガソリンタンクが冷えびえとして膝頭に心地よい。

いったんマンションまでもどり、リアにレインスーツをはじめとするツーリングの道具をいれたバッグをくくりつけた。

250tだから高速道路も走れるが、慣らし運転を兼ねて、博幸とおなじ年頃に好んで走っていた国道299号線を中心に設定したルートで野辺山を目指すつもりだ。


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