
視線の先に 第三章
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裏道ばかりをつないで、西武線小平(こだいら)駅の踏切の遮断機の前で思案する。
慣らしである。
エンジン回転をあげたくない。
交通量が多くて流れの速い新青梅(しんおうめ)街道は走りたくない。
けれど、このあたりまでくると裏道もあやふやだ。
ナビに頼りきりの四輪では、これほどまで頭を遣うことはないと苦笑しつつ、脳裏のおぼろげな地図を組み合わせて、ルートをつくりあげた。
迷ったかと思ったが、なんとなく国道16号線を横切っていた。
ずいぶん久しぶりであるが、飯能(はんのう)市街も迷わずに抜けた。
天覧山(てんらんざん)入り口の表示を見あげて、ニヤリとする。
もう迷いようがない。
国道299号線をひた走るだけである。
忘却の彼方であると思っていても、どうやら躯のほうが地理を覚えているようだ。
ペースの速い車の邪魔をせぬように気を配り、連続するカーブを抜けていく。
正丸(しょうまる)トンネルが近づいた。
そういえば青梅市街から成木(なるき)街道にはいり、名栗(なぐり)湖の脇を抜けて山伏(やまぶし)峠、そしてかの正丸峠と無数のコーナーを切りとって、正丸トンネルに至るルートもあった。
桜の季節に走ると、ときどき花吹雪につつみこまれたものだ。
トンネルにはいる前にトリップメーターの数字を頭に刻む。
トンネルをでた瞬間の数字からそれを引くと、どうやら正丸トンネルの長さは2キロ弱といったところだ。
それからたいして時間もたたぬうちに秩父(ちちぶ)市街を抜けた。
コンビニで弁当とペットボトルのお茶を買った。
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